授業は全く聞くことができなかった。


原因はヤクザさんだ。


あの人が悪い。


最後に変なことしてくるから。


ほんとにもう……。


「意味わかんない……」


「どうしたの? 今日ぴよちゃん変だよ?」


私は卵焼きを食べて首を横に振った。


「ううん。大丈夫。大丈夫。ちかちゃんこそ最近なんかあった? 妙に色気づいてるような」


ちかちゃんはまさかぁと言って、私から視線を逸らした。


「……お前らあれか。恋か? まさかそんなわけないよな?」


こ、恋ですとっ!?


「「ち、違う! そんなわけ!」」


一字一句ハモった。


しかも立ち上がって前のめりになるタイミングも一緒だった。


クラスで一番美人だけどとても口の悪い優子は訝しげに私とちかちゃんを交互に見比べている。


「ま、たしかにないか。あいつのノロケ話で手一杯なのに二人まで聴かされたらノイローゼになるね」


優子はここにはいない友達の名前を出して、にへらと笑う。


ちらりとちかちゃんを横目で見ると、まだ顔がりんごのように赤くなっていた。


私も伝染してるんじゃないかと、いますぐ鏡を見たい気分におそわれた。