フェアリーガーデン

 「来ませんねえ」

 「本当に、旭に届いてるんだろうな?」


 盟約式を行う会場はより一層ざわざわとしている。ここに一番いなければならない、“代表者”がここにいないのだから、当然かもしれない。

 月下はきっぱりと断言する。

「手紙に失敗はありませんよ、私の妖精は優秀ですから。評判が高いのを存じているはずですが?」

「……悪かった」

 冷静さを欠いているのは、十分認識している。どうも調子が狂う。立場上は自分の方が偉いのだが、そんなものは何の意味もなさない気さえしてくる。

 しょせん、ただの“肩書き”だ。

 
 学園長と補佐の月下を遠くで眺めてる詩徒たちは、小腹が空いた時のための非常食をポケットから取り出す。――本来ならば許可がいるのだが、手続きが面倒くさいため、バレないように持ち込んでいる。

 花糖でしっかりまぶして干したドライフルーツや干し肉など。蜂蜜たっぷりのバターケーキも多いが、これはもうおやつ時間の意味合いが強い。


「もうすぐ時間だよなあ。本当に旭先輩来るのかな?」

「来るに決まってるでしょ! 盟約式だよ? 旭先輩の詩が聞ける絶好の機会は早々ないんだから!」

「確かに。旭さんの詩は盟約式とか、しっかりした行事の時じゃないと披露されないから……それ分けろよ」

「えー数少ないんですけど!?」

 遠足にでも来たかのような賑わいに、やれやれと上級生たちの詩徒は首をすくめる。新入生を温かい目で見守りながら、ふとひとりの詩徒がぽつりと言った。


「これ――旭の詩だ」


 それは、学園長にも届いたらしい。


 森は静寂に満ちている。しかしそれは、一瞬で、別世界へと変わる。陽光さえ届かない、深い森の海、枝にかけられていたランプが一斉に点灯する。

 世界は一気に花開く。


――盟約式が始まるまで、あと十分。



 その頃妖精たちは……。

『もう近くにいねぇ!!』

『しょうがないですよ深紅。あれからさらに注文追加してたら間に合いませんし、待っていられないと思います』

『あいつらは紡ぎ手なんだぞ!?』

『そして僕らは妖精です』

『くっそーなんであんなにうまいんだよ〜ファーストフードってやつは……妖精の心まで掴むとは。末恐ろしいぜ……』

『口車に乗せられた自分が恥ずかしいです。もっと自分を律しなければ』

『全面的におれが悪いけど! でもなんか納得いかねぇ!』


 旭たちを全力で追って、盟約式の森を目指している真っ最中。


 ――盟約式が始まるまで、あと五分。