フェアリーガーデン

 蒼馬が手紙を淡々と読み上げる。手紙を受け取った者として。
 
 読まずとも伝えたいことが、手に取るようにわかるから、これを読む必要が果たしてあるのか疑問だが。

「“いい加減にしろ。そもそも旭を盟約式の代表者って言うのがおかしい。蒼馬、お前も旭の執事をやってるなら任務を全うしろ。1秒でもいいから、早く連れて来い”――以上だ。誰が旭の執事だ……」

 眼鏡をかけててもわかるほど、「心外だ」とはっきり顔に書いてある。

「蒼馬は頭が固すぎるんじゃない? いいから早くしてよパパ。盟約式、みんな遅れちゃうよ? ね、透羽」

 突然話を振られ、こくこく頷く。それが精一杯の少女の返答だった。

 旭が辺りを見渡す。そして、少し考えるようにして呟く。

「そういえばさ、深紅とカグラいないけど。どこ行っちゃったんだろうね」

「失念してた……はあ。そうなると、俺にはどうしようもできない。カグラがいないと力は発現できないからな」

「んー困ったね」

 あまり焦っているようには見えないような……。

 ひとりはらはらしている少女を、突っ突く魚。

 「薄明どうしたの?」

『とわ、ぼく、姿変えられる。ここなら、長く泳げるよ』

「…………そうだった」

 色々パニックになってて、学園でも頼れる人がいないから忘れていた。今教えてもらわなければ、今頃まだオロオロしていたかもしれない。

 意を決して、ふたりの名を呼ぶ。

 もう、時間がない。


「――神代さん、真田さん」


 盟約式が始まるまで、残りあと二十分。