私は彼女に何も言えなかった。
苑の時と同じ。
似たような体験をすれば、何か言葉を紡げるのかもしれないけど。
恋愛経験ゼロの私がその時できた唯一のことは、伝えなかったこと。
苑に、何も言わなかった。
「私は私。だから…先生にね、ちゃんと気持ち言おうと思って」
「宙さん…」
暗くなった空気を明るくするためか、手振り身振りで自分は大丈夫、と言った。
「フられに行くわけじゃないよ!ケジメつけるの。ダメでも…もしっ、気持ちを受け取ってもらえても…」
涙が零れそうな瞳。
それを拭った。
「応援してる、って言うべきじゃないかもしれないけど…応援してます」
「ありがと」
弱気を振り払うように笑った宙さんは綺麗で、強いな、と思った。
周りの目を気にしていない。
自分の気持ちを貫ける人は、かっこいいと思う。


