中学の頃、苑には好きな人がいた。


別段イケメンというわけでもなかったが、それなりの人気はあったと思う。



私はそいつと仲が良かった。

だから知っていた。





その男に彼女がいたことを。



有名な話じゃなかったから余計に、苑は知らなかった情報。


知られたくないことでも知っておくことは大切なこと。

今思えばその時学習した。



知らないだけじゃ済まないことが、この世界にはたくさんあって。


学校も例外じゃない。


まだ完全に大人に成りきっていないからこそ起きる歪みだってある。




『遊乃!付き合うことになったよ!』



心から幸せそうに、満面の笑顔で駆け寄ってきた苑に、私は何も言えなかった。

ただ、つられたように笑っただけ。


あの頃の苑は、そんな私をどう思っていたんだろう…



友達の幸せを祝えない悲しい女?

愛想のない女?


どう思われていたとしても、そのことでは私に非がある。


話していないのだから、そんな私の事情など、知るわけがない。