「美味しい?」
「うん」
「当たり前。お気に入りの店だからね、ここ」
微笑んだ彼女。
さっきあたしが傷つけてしまったのは、こんなにも優しい彼女だ。
あたし、ホント最低。
「…遊乃。あたしっ…」
「……別に今言わなくていいよ。その為に連れてきたんじゃないから」
背もたれにぐでーっと寄りかかっていた遊乃は、徐に財布を取り出した。
「先帰る、用事あるから。これ出しといて」
机にお代を置いて、颯爽と店を出て行った。
その後ろ姿を暫く眺めていた店員は、一目惚れでもしてしまったんだろう。
虚しい、片想い。
「お会計、お願いします」
その店員が前を向いたのと同時に、声をかける。
「あ、はい」
きっとこの人の心は遊乃に完全支配されていて、あたしの事なんて意識してない。
当たり前だよ、今会ったばかりなのに。
…あたしひねくれてる。


