恋愛協定の破り方

食堂の隅に二人で席を取って腰掛けた。

私の目の前にはお弁当。

ハルの前には学食。


「いただきます」


ハルが手を合わせてから、箸を手に取った。

ちゃんと、いただきますって言うんだね。

好きだなあ、そういうところ。


「いただきます」


私も同じように手を合わせて、お弁当の包みを開ける。


「わ、たまご焼きだ!」


ハルが私のお弁当をのぞき込んで、目を輝かせた。


「食べる?」


彼がかわいくて、ついそんなことをきいていた。


「いいの?」

「うん。
私はいつでも作ってもらえるから」

「ありがと。
大好物だから、すごい嬉しい」


無邪気な笑顔を見せるハルに、取りやすいように傾けたお弁当を近づけた。

だけど、彼はたまご焼きを取ろうとしない。


「ハル?」

「そこは、…食べさせてくれるんじゃないの?」


上目遣いでハルが私をじっと見る。

端正な顔がそのせいで少し幼く見えた。

あざといよ。

でもそんな顔でお願いされたら断れないな。


「はい、どうぞ」


緊張で変な汗が滲んだ手で箸をつかんで、その箸でたまご焼きを持ってハルの口元に運ぶ。

彼はそれに噛み付いて、咀嚼する。


「ごちそうさま。
最高においしいよ」


ハルがぐっと親指を立てて笑った。