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私立帝東學園(ていとうがくえん)。大日本帝国時代に創立されたこの学園は、元々は華族専用の士官学校であったが時代の移り変わりと共にそのあり方を変えてきた。
軍事独裁が崩壊してからは閉校されそうになったが、学園出身の名だたる著名人らがそれを阻止するため学園を買い取り自ら教壇へと立った。
初代理事長の『學びとは何者にも縛られず、如何なる権力にも屈しない純粋なる知識欲の探求であり、最大にして最高の社会貢献である』という精神が反映された学園であるため、過去においても現在においてもこの学園は自由と學びのシンボルとして存在している。


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「----以上がこの学園の創立理由です。新入生の皆さんにはこの学園の生徒としての誇りと品を持って過ごしていただきますが、それと同時にお家の名に恥じぬ行動にくれぐれもご注意を」

きらびやかでありながらも厳かな、和と西洋が混ざった雰囲気を持つ広間では150にも満たない全校生徒が集まっていた。

「それでは在校生代表、生徒会長である皇 百合枝(すめらぎ ゆりえ)さんから歓迎の祝辞です」

「はい」

司会の言葉に返事をし、一人の女生徒が舞台の幕から演説台へと進む。そのとたん、新入生を中心にざわめきが起きる。
----この学園の出身者には政界だけでなく、各界の重鎮達がひしめいている。この学園での上下関係はそのまま各界での実力差として反映されるため、派閥争い等は学生時代からもう既に始まっているのだ。そしてその争いの中で頂点を取った者が学園を支配出来る生徒会長となる。つまりこの学園を支配する事は、未来の日本を支配する事とイコールであるのだ。だからこそ誰もが生徒会長になろうと実家の権力や様々な物を使って躍起になる。

だがしかし。

「皇…?そんな家聞いたこともないわ…」
「なぁお前知ってる?」
「…初耳だよ」
「嘘、じゃあ何の後ろ楯も無いのに…?」

権力を使わずに生徒会長の座につく。
これ程至難な事は有るまい、そしてこれ程恐ろしい事もない。権力を使わない方法も勿論様々あるが、しかしどれを考えるにしてもえげつないやり方しかない。否、えげつないやり方でなければ権力と同等以上の力は出せない。これをやってのけたという事は正真正銘の支配者であり、化け物並みの頭のキレを持つという事だ。

「----新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」

百合枝が話し出した途端に今までざわついていた会場が途端に静まり返る。それは彼女の醸し出すオーラに圧倒されたからだ。絶対的な王者の風格。身を持ってそれを体感している。

ふんわりと。
新聞部からは美の化身と呼ばれ、校内では「白百合の君」と讃えられる、パリコレのモデルやハリウッドの大物女優すらも裸足で逃げ出す美貌を持つ皇百合枝は微笑んだ。