あの告白以来、順は私に積極的に近づいてきた。
信司には言ってない。
「今日は七夕だね」
休憩中私にべったり。
「そうね…」
「俺、年に1日しか会えなかったら死にそう」
「うん…」
信司の視線が痛い。
「おい!円は俺と付き合ってるんだぞ」
「だから何?」
「何って…」
「奪うことも出来るはずだよ」
「…」
私が悪い、順を引き離せないから…
「それに、縛り付けるのは可哀想だよ」
「俺がいつ縛り付けた?」
「マネージャーを変えただろ、強引に」
信司の痛いところをついた。
「勝手にしろ!」
ドアをバンッと閉め、信司は出ていった。
「信司っ…」
「行かなくていいよ、俺のそばにいて」
「だけど」
「頭を冷やさせればいいんだ」
私は戸惑った。
行くべきか行かざるべきか…
「やっぱり私行ってくる!」
楽屋を出て、屋上に向かう。多分あそこ。
扉を開けると、そこには信司がたたずんでいた。
「信司…」
「円、俺…」
そっと抱きしめる。
「円…」
「信司は私を縛り付けてない」
「…本当に?」
「うん」
信司が私を抱き返す。ぎゅと強く。
「そうだ!久しぶりに今日飲みにいかない?」
明日は休みだ。
「いいね」
「順と仲良くしてくれる?」
「あぁ、でもあいつの行動には目に余るな」
「私も悪いのよ…」
ハッキリしない私が…
「円は悪くないよ」
「順は縁だって言ってた。入れ替わったのも偶然じゃないかも…」
「縁か…順と入れ替わらなかったら俺達、出会わなかったかもしれないな」
ガチャ
後ろで気配がした。
「円、探したよ」
順だ。
「順、私達別れないから諦めて!」
「嫌だと言ったら?」
全然怯まない。
「順、俺達にかまうなよ」
「俺は誰よりも円を愛してる。それは変えられない」
諦めてくれそうにない。
「おい!お前ら仕事をおろそかにするなよ。もう時間だ」
三井さんが現れた。
「「はい」」
屋上から二人が消える。
「橋爪さん、順が迷惑かけたね」
「いえ…」
「俺からも言い聞かせておくから、今日は信司だけ送ってくれるかな?」
「はい、ありがとうございます」
頭を下げる。
「礼には及ばないよ。これもマネージャーの仕事さ」

スタジオに入ると、信司と順は仲良く話をしている。
それが演技なのか、そうでないのかは定かではない。
仕事に私情を挟まないのが、この仕事と学ばされた。
「あいつらもプロだからな」
三井さんが呟く。
「はい、私もプロ意識を持たないと…」
「マネージャーも大変な仕事だけど、橋爪さんなら大丈夫さ」
収録が終わり、順は真っ先に私に向かってきたが、三井さんがそれを制した。
「三井さん?」
「今日は話がある。ちょっとこい」
順を連れてスタジオから出ていった。
「三井さんどうしたの?」
「…それより、帰りましょ」
信司だけ乗せ、マンションに向かう。
「着替えるから待ってて」
リビングに信司を待たせ、私は着替えメイクをなおす。
「お待たせ、行こうか」
近くに居酒屋がオープンして一ヶ月。
「いらっしゃいませ!!」
店内は明るく、活気がある。
奥座敷に収まり、飲み物を頼む。
「いい雰囲気だな」
「そうね、近くにあるからいつでもこれるわ」
乾杯とグラスを合わす。
「明日は休みだから、安心して飲めるね」
「酔いつぶれてもいいよ。ちゃんと連れて帰るから」
「そんなに飲まないわよ」
私はケラケラ笑う。
「次は誰の誕生日を祝うの?」
「タケよ。23日が誕生日」
「タケか〜何するの?」
「約束を実行するだけ」
「約束って何?」
「秘密」