今日は順の誕生日。
みんなに内緒で、ケーキを作ってきた。
楽屋の冷蔵庫に隠しておこう。
歌番組の収録が終わり、ぞろぞろと帰ってきた。
「お疲れ様」
「おつかれ」
この後は誰も仕事が入っていない。
「順、渡したいものがあるんだけど…」
「何?」
冷蔵庫からケーキを出し、机に置く。
「今日、誕生日でしょ?お祝いしよ」
「マジで!嬉しい」
ケーキを八等分し、みんなで食べる。
「順おめでとう」
「ありがとう、すごく美味しい」
口の周りがクリームだらけ。
「女の子にケーキ作ってもらったの初めて」
「そうなの?」
「橋爪さん、すごく美味しいです」
後藤さん、口クリームだらけ…
いつものようにみんなをマンションに送り、私の仕事は終わり。
ピンポン
「はい、はい」
「円、用事ってなに?」
順を招き入れる。
「こっちが本当のプレゼント」
細長い箱を渡す。
「何だろ、開けていい?」
「どうぞ」
箱を開ける順。
「わぁーネクタイだ、ありがとう」
「良かった、選ぶの大変だったんだよ」
「でも、いい色」
海のようなブルーのネクタイ。
「彼氏さんのですか?って聞かれて参ったわよ」
「そうですって言えばいいのに」
「えっ…」
順が意味ありげに言う。
「俺達何かの縁で入れ替わったんだと思う。やっぱり俺達付き合おう」
思わぬ告白。
「私には信司がいる。裏切れないよ」
「でも、俺はこれからも円を愛し続ける…」
「…」
重い沈黙。
「俺の気持ちは変わらないから」
そう言い残し、順は部屋から出ていった。
何でこうなるかな…
私なんて何処にでもいる女なのに、こんなとき誰かに相談…
ピンポン
誰?
「はい」
「円ちゃん、ちょっといい?」
司だった。
「どうぞ、司が来るなんて珍しいね」
「そうだね」
コーヒーを入れ司に渡す。
「何かあった?」
「実は…」
さっきあったことを司に話す。
「やっぱり…ホクホクとした顔で順が出てくるのを見たから」
「そう…」
「円ちゃんは信司と付き合ってるよね。順はどうするの?」
「困ってるのよね」
「信司を裏切れないって所?」
「うん…」
カップに口をつける。
司は何でもお見通しだ。
「私、順に出会わなければ良かったのかな…」
「何で?」
「なんとなく…」
「俺達とも出会わなければ良かったって思うの?」
悲しい顔で私を見る。
「ごめん」
「俺は円ちゃんと会えて良かったよ」
「司、ありがと。救われるわ」
「じゃあ俺いくわ」
「うん、ありがと」