「りっちゃーん!」
セミの鳴き声が嫌というほど聞こえてくる、七月の終わりの早朝。
「りっちゃん! 大変なの!」
「……千夏、朝から声でかい」
私は一目散にりっちゃんの家まで走ると、ちょうど家から出てきたりっちゃんに抱きついた。
りっちゃん―――大野 梨紗(おおの りさ)は、近所に住む涼平の幼なじみだ。
背が高くて、スタイルが良くて、まるでモデルさんみたいなりっちゃん。
物事をスパッというタイプで、クールなところがかっこいい。
「あのね、涼平一家が家にいない!」
そう。
私がさっき涼平の家に行ったら、玄関が閉まっていて、部屋の中も真っ暗で誰もいなかった。
「ああ……うん、そう」
りっちゃんは、私から目を逸らして地面を見つめながら気まずそうにつぶやいた。
「今日は……涼平たちは帰ってこないよ」
意味ありげなその言葉に、私は黙っていられなかった。