項垂れている伊織の前にたつ。
こんなにも弱々しい、初めて見る伊織の姿に私は泣きたくなった。
カインの言葉に、こうして動揺するほど伊織の心は暗いものを抱えて、しかもそれを自分ですらもて余していたなんて。


「……カインの言う通りだ」


低く呟く声は力ない。
伊織は苦悩するように、俯いたまま頭を抱えた。


「独占欲だけじゃない。俺はどこかで……真琴を信じきれていなかった。怖かったんだ、真琴を失うことが。俺たちはまだ若いから、何度だってやり直しはきく。いつか真琴が他の奴を好きになって、俺の元から去るんじゃないかって、そんな不安が付きまとっていた。真琴が俺に愛情を示してくれていたのもよくわかっていたけど、自信がなかった」


ポツリポツリと話す伊織の声が微かに震えている。


「真琴を愛している。愛しているから……恐い」


ああ、この人はなんて愛されることに自信がないのだろう。
愛しかたも、なんて不器用なんだろう。
生い立ちがそうさせているのだろうけれど、私は今すぐにタイムスリップでもして、幼い頃の貴方を抱き締めてあげたい。