カインの静かな声に、伊織の息を飲む音が聞こえた。


「伊織、妻の愛を信じるんだ」


伊織は俯いて手で顔を覆った。


「信じているさ! 俺はただ嫉妬しているだけだっ」
「いや、嫉妬だけではないよ。君は嫉妬の根底に、失う恐れを抱いてる。真琴が自分から離れたらどうしよう、心変わりをしたらどうしよう、居なくなったらどうしよう、と」


それに顔をあげたのは私だ。
私は一度、伊織の前から姿を消したことがある。結婚したばかりの頃だ。
もしかしたら、それも伊織の恐れになっている?


「伊織に必要なのは、信じる気持ちだ」
「信じているさ」


そう答える声は小さく掠れている。


「いや、信じてないよ」
「信じているっ」
「じゃぁ、なんでそんなに怯えた顔をしているの?」


カインは優しい顔でそう告げ、伊織の手をとった。