部屋に戻ると、すでに伊織はベッドに横になっていた。
いつも二人で寝ているベッドの半分、私側に背を向けている。

いつもは絶対、私の方を向いているのに。

「伊織……」


そっと声をかけるが返事はない。
寝てはいないと思うけれど、背中が会話を拒否している。
さっきリビングで、もしかしたら私とカインが近すぎて怒っただけではなく、キスされそうに見えたのかなと思った。だから『触るな』と凄んだのかもと。

誤解だと通じてはいるだろうけれど、そのあとの『怖がるな』というセリフは伊織の心を突き刺したのだろう。

私は伊織の想いを受け止めるよ。
どこにも行かない。


そう言葉にしたところで今の彼に伝わるのだろうか。