今はサッカーなんかどうでもいい。
それよりも大切なものを見つけたから。
「早かったな」
「う、うん」
窓越しで果歩と話すのは久しぶりだった。
ここからはもう、越えられるほど近い。
俺達はいつもそうだった。
飛び越えたら越えて行けるほどの距離。
なのにその距離に壁ができたみたいに、果歩と俺にも距離ができてきたのかも知れない。
近いから、近すぎるから伝えられないこともある。
「空髪濡れてるよ」
「あぁ、乾かすのだるかった」
「風邪ひくよ?」
「夏なのにか」
「夏でも油断しちゃいけません」
ふっ、なんだよそれ。
「母さんみてぇ」
「な、母さん?」
「あぁ。うける」
「うけないし!」
「なぁ果歩」
「え?」
「いや」
「えっ!?何よ」
俺なにがしたかったんだろ。
ただ、名前を呼びたかったのか?
「なんもねーよ」
「じゃあ呼ばないでよ」
「呼んじゃいけねーのかよ」
「そうだよ」
「そうだよってなんだよ」
何だこの会話。
「あ、空」
「なんだよ」
「なんにもないよー」
「はっ!?」
「ただ呼んだだけー」
「用もないのに呼ぶな、パクんな」
「あー、空も真似したー」
「は?してねーよ」
俺は、こうやって果歩が笑っていればそれで良かったのに。
なんでそれ以上のものを求めんだろう。