登山ガール

「何でもないですよ。しっかり捕まってくださいね。」

「ありがとね。由美にはいつも感謝してる。」

後輩の感謝を聞き、足の痛みも少し和らいだ気がする。

ほんとあたしは良い後輩を持った。










本当だ。木の枝にリボンが結ばれてる。

由美ちゃん達と別れて山頂を目指している私は感心していた。

きっと、たくさんの人達が後に登る人の事を考えて結んだんだろうな。
それに、由美ちゃんが言ったように道はないけど、それっぽいのは見て分かるし、こう言うのを登山道って言うんだなぁ。

「ふふっ。」

登山道を歩いていると、(登っているとかな?)木に板が付けられており、リボンと一緒にメッセージが添えられていた。

“ガンバレ ファイト”

つい笑ってしまった。

こういうのも面白いよね。これを書いた人、センスあるなぁ。

「うん。頑張るよ!」

「頑張ってね。」

木の板に声をかけたら、後ろから返事が返ってきた。

振り向くと、40歳ぐらいのオジサンが立っていた。

「こ、こんにちは。」

顔を紅くしながら由美ちゃんに言われた通り、挨拶をする。

「こんにちは。今日も暑いですね。」

オジサンも返してくれた。私も返さなきゃ。

「そうですね。今日も暑いですね。」

「アハハハ。まだ先は長いけど頑張ってね。それしゃお先に。」

オジサンは手を振りながら私を抜いていった。

元気な人だなぁ。あと、緊張した~。
けど、これが登山の常識なんだよね?こんなんで緊張するなんてまだまだだな。私だってもう24才なんだから、これくらいで緊張してたら駄目だよ絶対。少しは先輩を見習わないと。

景色を見ながら、そんな事を考えていると、案内表札が建っていた。

←滝子山(迂回ルート)
→滝子山(注・難路)
←大鹿山

う~ん。迂回ってことは遠回りってことだよね。大鹿山が同じ方にあるって事は、大鹿山を通る分かりやすい道って事?
どうしようかな。早く山頂に着くことを考えると右なんだけど、迷っちゃったら余計に遅くなるかも。だったら、迂回して確実に山頂を目指した方が早いかな。

よし、左の迂回ルートにしよう。

どんどんと沢から離れていき、水の音が聞こえなくなる。

私、間違ってないよね。この登山道、一本道だったよね。

不安にかられながら歩いていると、また水の音が聞こえてきた。

よかった~。合ってたんだ~。多分だけど。