登山ガール

うん。いつも通りの後輩だ。とくに問題なし。

「由美ちゃん、大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ。わたしも、花菜ちゃんもね。」

由美ちゃんがニッコリと笑う。

そうだよね。せっかく2人が私の為?に連れてきてくれたんだから頑張らないとね。

「分かったよ。私、山頂を目指してみる。」

「花菜ちゃんならそう言うと思った。そんな花菜ちゃんにわたしから一言。山を登り下りたりしている時に人と擦れ違ったら挨拶をする事。「こんにちは~」ってね。それは山登りマナーってより基本だから。」

「うん。分かった。」

登山って意外と奥が深いのかも。ただ、登って下りるだけだと思ってた。

「じゃあ、わたし達は初狩駅で待ってるから、怪我をしないように頑張ってね。」

由美ちゃんが私に敬礼をする。

「うん。行ってきま~す。」

私も敬礼で返す。

「「行ってらっしゃい。」」

2人に見送られ、登山を再開する。絶対登頂して先輩をバカにしよう。途中で止めたら先輩と同じ、五十歩百歩だ。








「はぁ、またやっちゃったなぁ。」

花菜を外に連れ出したまでは良かったのに、どうしてこうなっちゃうんだろ。

「桜井先輩には向かないんですよ。まぁ、わたしが相談したんですけど。」

由美に最近花菜が無理をして頑張っているから、息抜きをさせたい。と、相談された。ならばと由美の趣味である登山にしたらどうだと提案し、あたしが連れ出すことになった。いざとなれば先輩命令で連れ出せば良いだけのこと。

で、結果がこれだ。まったく持って情けない。

「しかし、桜井先輩が恋人の話をして花菜を連れ出すとは思いませんでしたよ。つい最近別れたって嘆いてたのに。」

「しょうがないでしょ。他にいい案が見つからなかったんだから。」

それに無理やりってのも嫌だったし。まぁ、殆ど強制だったけど。

「とりあえず駅まで戻ったら、高尾に行きましょうか。ここからだと、山頂まで行って初狩駅に着くのは6~7時間掛かりますから。」

「由美に任せるわ。」

結局のところ、あたしには無理だったわけだ。このあたしに6時間も登る体力は残っていないのだから。
引き返す時間が少ないだけ由美に掛かる負担が少なくては良かった。

「(ありがとうございます。桜井先輩は頼りになるわたしの先輩ですよ。)」

「ん?何か言った?」

小さな声だったが、しっかりと聞こえていた。が、聞き直す。