登山ガール

祠を抜け少し行くと、
→山頂
←初狩駅
↓大谷ヶ丸
という表札が。

やっと山頂に着くんだ。表札に書いてあるって事は、すぐそこって事だよね。だって、今までは山頂じゃなくて滝子山って書いてあったから。

やった~。これで、先輩にバカにされずにすむ。

よ~し。もうひと頑張りだ。

重たくなった足を上げ、ラストスパートのつもりで足を前へと出す。

今までで一番急な斜面が目の前に立ちはだかっていた。

こ、ここまで来て諦めてたまるもんですか。

斜面や岩に手をついてよじ登る。

そうやって登ると、小さな空間が目の前に広がり、“滝子山1610m”と書かれていた。

「つ、着いた~。長かった~。」

近くにある岩に腰掛け、息を整える。

辺りを見渡しても、人の姿が見えない。私を抜いていった人たちはきっともう下りていったのだ。

つまり、このすごい景色を独り占めなんだ。なんか、すごいお得感だよ。

「ヤッホー。」

とりあえず、叫んでみた。会社でのモヤモヤが、スーと消えていく感じがする。

あんまりやってると、他の人が来ちゃうよね。あと一回ぐらい叫んでみても平気かな。
せっかくだし、叫んじゃおう。

「彼氏ほしい~。イケメンじゃなくてもいいから、私を好きになってくれる人がほしい~。」

「それって、俺でも可能性ってありますか。」

「えっ?」

振り向くと、若い男性が立っていた。

「きゃあ~!」

「あぶない!」

驚いた拍子に崖の方へと体が揺れ、先程の男性に抱き寄せられた。

「あ、ありがとうございます。」

「いえ、怪我が無くて良かったです。ここから落ちたら、死ぬ可能性が高いですから。」

男性から離れ、頭を下げる。

「ごめんなさい。私ったらはしたないまねを。誰もいないと思ったから。」

「いやいや、別に叫んでもいいと思いますよ。それに、早朝に登って山頂で昼寝をしてた俺が悪いんですし。それで、俺じゃダメですか?」

「あ、あの、お友達からでも良いですか?私、男性と付き合った事がなくて、その、駄目ですか。」

「それで構いません。俺、友達から彼女になるように頑張ります。」

そう言うと、笑みを私に向けた。

「えっと、私、吉野花菜って言います。24才のOLです。」

「俺は、田村雄介。27の町工場に勤める会社員だ。よろしく。」

年上かぁ。でも頼りになりそうだし、少し私好みかも。