その時 、ガタンと音がした。
誰も来ないはずの"旧"備品室。
一歩動いて、入口付近を見ると、新入社員の上原くんが棚の上の箱をガサゴソいじっていた。
聞かれた?
さっと振り返ると、部長は物陰に隠れていた。
「どうしたの?上原くん」
ひときわ声を高くして、入口の方へ歩みだした。
「ああ。先輩」
この子は誰でも先輩と呼ぶ。
他の新入社員の話では上原くんは、ひとの名前を覚えるのが苦手らしい。
「コピー用紙が切れてしまって」
「それなら、こっちじゃなくて向こうの部屋よ」
と言いながら私は、上原くんを伴って旧備品室を出た。
なんで別れ話をされた後に、こんな子の面倒見ないといけないの?
その上、なんで私は最低男をかばうようなことまでしてるんだろう。
そう思ってるのに私はまっすぐに前を向いていた。