ジャンル:恋愛
 構成指定:結起承転
 テーマ指定:「告白」「涙」を盛り込む
 文字数:2000字~5000字

 というお題で書かせていただいた作品です。

◆     ◆     ◆     ◆

 恋は一時の煌めき。そして、愛を保つためには覚悟も必要だと感じる。
 私が、そう痛感したのは研修していた頃。あの時は何も知らない若輩者で皆を困らせた。
 一人前になった今は、すこし落ち着いたと思う。けれどまだ、周りに助けられっぱなしだ。
 仕事で疲れて家路に就く頃には、陽もすっかり落ちて街灯が点いている。
 娘は寂しい思いをしていないだろうか。いつも帰りが遅くなる度に、遊んであげる時間があるといいのにと悔しくなる。
 けれど玄関を開けると待ちかねたように出てくる娘の笑顔に、いつも救われるのだ。
「お母さん、お帰りなさい。お父さんは?」
「今日は緊急のお仕事が入ったから遅いって。ちゃんと、おばあちゃんの言うこと聞いて良い子にしてた?」
「うん」
 娘が出してきた手を取って一緒に食卓に向かう。この時が私の心が最も休まる時間だ。
 食卓に向かう途中で居間の前を通ると、扉がすこし開いていた。その隙間から義母の姿が見えた。そして、押し入れから出された赤い表紙のアルバムも。
「おかえり。懐かしい写真、見せてもらっているよ」
 義母が老眼鏡を指で押し上げながら、笑ってしわを更に多くする。
 足をとめた私を見た娘が、頬を膨らませながら言った。
「あの本だけ私がいないんだもん。おばあちゃんに訊いたら、私が生まれる前の写真なのよって教えてくれたんだ」
 そう、あれは私と夫が結ばれるまでの写真を収めたアルバム。
 見た途端、抑えこんでいた記憶が一気に解放されて胸が熱くなった。つないでいる娘の手の温かさを感じながら、無意識のうちに強く握ってしまう。
「お母さん。泣いてるの?」
 子供はそんな母親の気持ちを敏感に捉えるものだ。不安そうな娘の顔を見て、私は慌てて顔を拭った。
「泣いてないよ。さ、ご飯食べようかな。お風呂は入った?」
「お母さん待っていたから、まだ」
 この小さな手は、まだ大きくなるんだ。娘を引き寄せて強く抱くと困惑された。
 赤いアルバムは夫とともに選んだ色。それは私と彼が、あの時好きになった季節の色。
「楓(かえで)はお父さんとお母さん、どっちに似ていると思う?」
「うーん……両方!」
 楓のような娘の手を握り締めると、すこし迷ったような答えが返ってきた。
 そう、この子は私と彼の愛の結晶。あの時に守ると決めた大切な命なのだから――。

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