蜂蜜と棘。2


家に着いた。
俺の本当の家。


「ただいまー」
「おかえりなさーい!おとうさーん!」


息子のソラが
もうパジャマ姿なって
飛びついてきた。



「そら~ただいま~」
と言ってぎゅうと抱きしめる。


まだまだ体が小さくて柔らかい。


「もーそら!お父さんに抱きつかないで!
せっかくお風呂入ったのに汚れちゃう!
明日は遠足でしょ?もう寝なさいよ」


母親に叱られしょんぼりするソラ。


「はやく着替えてよ。作業服のままいられると砂ぼこり落ちて部屋が汚れちゃうでしょ〜」



悪気はないんだろうが
すごく嫌味に聞こえる。


「ご飯食べるの?」
「うん」
「遅くなるなら外で食べてきたらいいのに」

八年もすればどこの家庭もこんなものだろう。と思っていたけど
姫菜と夏樹のところから帰ってくると
家の居心地の悪さに気付かされる。



だったら、姫菜のところに行けばいいと
思うけど、それも出来ない。

なにをゆっても、ソラが可愛い。
手放したくはない。

離婚するということは
姫菜の存在も夏樹の存在も
すべてバレてしまう。


そしたら、妻は姫菜を訴えるだろう。
きっと離婚なんかしない。


職場のみんなに俺の隠し子がいるってバレてしまう。


仕事は救命士をしている。

そら、仕事、お金、地位
きっと
大切な姫菜と夏樹も
守れない。

失うものが大きすぎて多すぎる。


俺は自分が犠牲になる勇気なんて
…。


(2015/07/09 18:01:41)