あなたとのキョリ

『あ、そろそろ帰らなきゃ』
あんまり暗くなると、お母さんが心配しちゃう

「あら
そうなの?
またいつでもあそびに来てね〜」
駿君のお母さんが、キッチンからひらひらと手を降っている

『はい
今日はありがとうございました』
名残惜しいけど、帰ってからはぴぴちゃんの写真で癒されよう

「じゃあ俺
送ってくるから」

『えっ
いいよ、家すぐ近くだし…』

「いいから
素直に送られなさい」
駿君お母さんみたい

『うん…
じゃあ、お願いします』
ぴぴちゃんにもバイバイをすると、玄関に向かった

すりガラスごしに見えるぴぴちゃんをみていて、玄関の段差に気がつかなかった

「あっ
おい!危ないぞ!」

『へっ
きゃあっ!』
駿君の声と同時にわたしの体は地面に…
と思ったら体は宙に浮いたまま
状況を理解するのに時間がかかった

『あっ
しゅ、駿君…』
体がみるみる熱くなっていく

「ほんっと
危なっかしくて放っておけねー…」

転ぶ直前で、駿君がわたしを抱きとめてくれた
耳元で駿君の声が聞こえて、体がしびれるような感覚になる

『ご、ごめんね
今どくから…
駿君?』

わたしがどこうとすると、駿君は抱きしめる腕にさらに力を入れた

心臓の鼓動がどんどん早くなっていく

『あの…
しゅ、駿君…』

「…だよ」

『え?』
駿君が小声で何か言ったけど、
よく聞こえない

「好きだよ…」

『えっ…』
体がさらに熱くなっていく

もう限界っ
と思ったとき、駿君はわたしを地面に下ろした

「…帰るか」

『あっ…
うん…』

〈好きだよ…〉

さっき言った駿君の言葉が、耳鳴りのように響いてくる

痛々しいくらい切ない声

駿君の気持ちは痛いほど伝わってくる
でもまだ気持ちに答えられない罪悪感がわたしの胸を締め付ける

「着いたよ」
あ、もう家に着いたんだ
そうだよね
すぐ近くだもん

『送ってくれて、ありがとう』

「うん
じゃあ、また明日な」

『あのっ…
駿君…』

「ん?
どうした?」

『あ、えと、
なんでもない…』

「そっか
桃、明日、忘れんなよ」

あ、明日映画観に行くんだった

『うん
じゃあ、また明日…
本当にありがとう』

「おう
また明日」
駿君はわたしの頭をぽんっと撫でると、
自分の家に帰ってしまった

わたしはさっき、駿君を引き止めて何を言おうとしたんだろう…

『体が熱い』
さっき抱き締められたときの熱がまだ残ってる

でも…
抱き締められて、全然嫌じゃなかった

『早く家に入らなきゃ』
明日どんな顔して駿君に会えばいいんだろう

抱き締められたのも、こんなに体が熱くなったのも初めてで、わたしはどうすればいいのかわからなかった