誰でもいいわけじゃない。
震える乃愛の唇をそっと親指で撫でる。
それだけでもギュッと目を力いっぱい閉じて震える。
「唇、あんま噛むなよ。切れる」
「……えっ? あ……」
目を開けた乃愛は、戸惑いの表情を見せる。
ちょっと触っただけで震えてんのに、キスなんてできるわけねぇじゃん。
乃愛に好きになってもらうまではお預けだな。
つっても、果てしなく先が見えないんだけど。
考えただけで長くなりそうな予感に苦笑だけが漏れる。
「ひ、人に怖い思いさせといて何笑ってんの!?」
途端に元気な声で言い返してきた乃愛は、俺の態度がお気に召さない様子。
「ふーん、怖かったんだ?
いつもそんなふうに素直だったらいいのになぁ」
「なっ! あ、あんたなんか全然何とも思わないんだから!」