「ごめんな、大空(そら)
夕飯はまだ考えてなかったから、おまえの好きなもの作ってやるよ」
そう言って優しく笑ったのは、間違いもしないうちの高校の人気者の柊叶真だった。
サラサラの艶のあるストレートの黒髪に、少し色素が薄い茶色の瞳は彼の意思の強さを表す。
パッチリとした二重に、長い睫毛、スベスベの肌。
女の子を夢中にさせる言葉を放つ唇は、あたしでも憧れるほどに綺麗。
甘めで落ち着きある聞き取りやすい声に、端正な顔立ち。
自信満々で女の子にいつも囲まれている彼がどうして――。
あたしの目に映る叶真は、学校で見る姿なんてどこにもなくて、彼のことを「お兄ちゃん」と呼んだ弟さんを心から大事にしてるのが表情から仕草から滲み出ていた。
「ほんと!? じゃあね~、ハンバーグがいい!!
ママが作ってくれたハンバーグ食べたい!」
ニコニコと屈託ない笑顔を浮かべてリクエストする男の子に、叶真は苦笑いしていたっけ。
「母さんが作ってくれたみたいにできるかはわかんないけど、出来るだけ頑張ってみるか」
そう言って、弟さんの柔らかな頬を指でつまんだ叶真は、とても優しそうな顔をして笑っていた。
学校では絶対に見せない表情を初めて見て、この時のあたしの胸の鼓動が叶真に反応していたのは、間違いじゃなかった。
その日から、学校でも叶真のことを見かけるたびに自然と目で追うようになっていた。

