「そしたら、2人前に来て後のこと頼むよ」
えっ。
上島先生はもう教壇から降りて教室の隅っこの方へ移動してしまった。
ど、どうしよう。せいとなんて今は気まずくて…。
「なな、前でないの?」
後ろから小さな声で舞花が話しかけてくる。
「う、うん」
行きたくても行けないよ〜!!
どうしよう、どうしようと考えているとガタッと椅子の動く音がした。
もしかして…
チラッと前を見ると、せいが席を立っていてもう教壇の上に立つところだった。
う、嘘でしょ?!
私は朝のことを思い出しながら驚いてせいを見つめていた。
教壇に立ったせいは私と目を合わせると、クイっと顎で「こっちに来い」と合図をした。
「…ぁっ」
とりあえず行かなきゃ。
私も席を立って恐る恐る教壇の方へ歩く。
一歩、また一歩…せいに近づいていく。
だ、大丈夫。せいだから変に緊張するのがおかしいよ。
自分で心に言い聞かせながら私は教壇に上がってせいを見上げた。
「俺喋るから、はいー」
低い声でおまけに無表情でそう言われ、せいは何か差し出してきた。
「え…?」
右手を差し出してみると、せいはポトンとチョークを私の手の中に落とした。
「お前は書いて」
それだけ言ってせいはみんなの方へ向き直った。

