「ここはお前の家だよな?」

「そうですよ」

「お前、年は?」


お前お前と言われるのは癪だが、名乗っていないのでそれも当たり前だろう。

え?なんで名乗らないのかって?

それは名乗る意味もないからだ。
ハルさんこと、この人気アイドル様に名乗ろうが名乗らまいが、きっと覚えていらっしゃらない。

それならば、お前、と呼ばれるくらいが丁度いいと思ったのだ。


「15です。今年高校生になりましたね」

「15?まじで?」


今度は驚いた顔。
今日で何回目だろう。表情豊かな人だな。


「なんです?老けて見えました?」

「いや……15なら、俺にドハマりの世代だろ」

「…それは自惚れ…ではないんでしょうね。きっとそれは事実ですね。私の回りでは人気者ですよ、ハルさんは」

「なんでアイドルの俺に興味がない?」

「それを貴方が聞きますか…」


そんな、本人に自分の本心を言うなんて…流石に…


「私のアイドルといえば、ムノキさんですから」

「…ムノキ?」

「はい、世界陸上のムノキ選手です。彼は無敵のヒーローです。私の唯一のアイドルで、目標です」


突然目を光らせて語りだした私に引いたのだろう、なんだか御キレイな顔がひきつっている。


「私にはムノキ選手がいるので、いわゆる世間一般の人気アイドルとか興味ないです。ただそれだけの話です」


陸上部入ろうかと思ったのも、ムノキ選手があってこそだ。

中学のころは一応陸上部なるものはあったが不人気で、部員は5人と張り合いがなかった。

純粋に陸上が好きだったわけではないのも要因で、ただ人生の目標としてきたムノキ選手の見ている世界を見てみたい、という単純な好奇心からの入部だったからか、本気で取り組んだことはなかった。

小花ちゃんのこともあるが、この事もあって迷っていた。
高校に入ってからも、陸上を続けるかどうか。