芸能人がこんなところに一人でいてもいいんですか?
しかもファンだと(勝手に)思っている女の手なんか掴んで。
「……………」
聞きたかった。
アイドルとか、こいつに対する興味など持ち合わせていないが、なぜ私の手を掴んで、そんな顔をして引き止めているのか…
「…あの、」
でも聞けなかった。
目の前の“人間”が、あまりにも“普通の人”に見えて、私は掴んでいる節張った手首を逆に掴み返す。
ギョッとした顔に思わずニヤリと笑って、その手を引く。
「ミハマソーダに合う料理があるんですよ」
「…は?」
「パッケージは変だけど、美味しいですからね。小さい頃に模索して、見つけたんです」
「…………」
そう言って歩き出す私に驚いたのか、つい、といった感じで付いてくるアイドル様。
「なんだか暇そうだし、ご一緒にどうですか?」
「……ファンとは、馴れ合わない」
「それはよかった」
ぶすっといった声に一端足を止めて、くるりと振り返る。
「私、あなたのファンじゃないですから」
それはもう、満面の笑みでそう言ってやった。