それはそれは、首を回すのも億劫、といった風に私はそろりと振り返った。
そこにはやはりアイドル様がおり、ビニール袋を持たないその手は私の手首を掴んでいる。
「…なんでしょう」
私は相手の顔を見ずにそう言った。
さすがに迫力のある不機嫌顔を何度も見るのは御免被りたい。
「…お前、この前もここにいたな」
「は?……もしかして覚えてます?」
「あ?…覚えてんに決まってるだろ」
衝撃だ。
多忙であろう彼が、撮影で訪れた地のただの野次馬の一人を覚えているとは。
たった半月ちょっと前だとしても、私は驚いて思わず上を向く。
「……なに」
「いや、別に…」
そこには思っていたほど不機嫌そうな顔はなく、なんだか迷子になった子供のような風貌がそこにはあった。
