あなたが私にキスをした。


トキワのいない部屋でぼんやり過ごす時間は、とても長くて退屈だった。

ねむれば少しは時間が短く感じられるかもしれない。

そう考えた時、どこからか小さな声がきこえた。


――ミャアオ。



「?」



私はのっそりと体を起こして窓の外に目を向ける。

すると、白い雪の絨毯の上に白と黒の毛をした猫がたたずんでいた。

宝石のような緑青色の瞳が真っ直ぐにこちらを見ている。

まるで私を招き寄せているかのように。

吸い寄せられるかのごとく、ゆっくりと窓を開けると冷たい風が一気に押し入ってきた。

猫は私に背を向けゆっくりと歩き出す。



「あっ、待って」



私は慌てて靴箱にあった適当なブーツをはいて、急いでそとに飛び出した。

きょろきょろとあたりを見回し黒猫の姿を探していると


――ミャアオ。



さっきより少し大きな声で、

――ここにいるよ、

と言うようにさっきの猫が鳴いた。

少し離れた林の小道に猫は立っていた。

私は小走りでその猫の後を追った。



くねくねと細い一本道。

雪を抱えた杉の木が両脇に並んでいる。

しばらくその道をたどってゆくと、やがてひらけた場所に出た。