「おはよう、トーコ」
ひとしきり笑ったあと、彼は深く優しい眼差しに私を映してそう言った。
「…おはよ」
初めて発した私の声に彼は少し驚いた顔をしてから、嬉しそうに笑ってくれた。
「…っと、急いで支度しなきゃな」
目覚まし時計に電池を戻しながら、彼は名残おしそうに言った。
「どこ、いくの」
「んー、お仕事。ホントはずっとトーコといたいけどね」
私の頭をぽんぽんと押さえて、トキワは微笑んだ。
トキワが手際良く作った朝食のオムライス。
一緒に食べ始めたはずなのに、私が食べ終える頃にはトキワはとっくに皿を片付けて出かける用意を整えていた。
「お腹がすいたら、台所にあるもの適当に食べていいから。夕方には帰るよ」
行かないで。
思わず口を付きそうになった、そのワガママな言葉を、ぐっとこらえて首を縦に振った。
「…いってらっしゃい」
「いってきます」
玄関の扉はパタンと小さな音を立てて、彼の姿を隠してしまった。
