あなたが私にキスをした。

だけど、それはほんの一瞬で、またすぐに元に戻った。



「なに、トキワ?」

「あ、いや…なんでもないよ」



と、作り笑いを浮かべるトキワ。

本当は、トキワだって「その時」が近づいていることを勘付いているはずなんだ。




「はっ、はは、あはははははは!!!」




近くで、不気味な笑い声が聞こえた。

のぞいてみると、トキワの作品の前で両膝をついて、狂ったように笑う、イオリさんの姿。



ゾクリとした。



イオリさんは、なにかを決心したように立ち上がると、どこかへ去っていってしまった。

なんだか、とても嫌な感じがする。




「トキワ、私先にアトリエに帰っていてもいいかな」

「え、だけど…」

「おいしい夕飯作ってまってるからね!」

「トーコ…!」



私を引きとめようとするトキワを、報道陣が取り囲む。

最優秀作品賞に選ばれたのだから、きっとこのあとたくさんの取材に応じることになるのだろう。



私はひとり、電車に乗ってアトリエへと向かった。