pipipipi…

無機質な機械音で、私は目を覚ました。

アラームを止めて起き上がると、机には閉じられたノートとペン、ご飯と置き書きがあった。

ノートとペンを棚に置いて、置き書きを読んだ。

「ご飯置いておきます。起きたら食べてね…。あ、寝てる間に看護師さん来たんだ。」

特に声に出しても意味ないんだけど、静かな空間が少し怖かった。

…目の前にいた私は、何を伝えようとしてたんだろ。

まず、あの私が記憶を無くす前の私なのか、…もう死んでしまった私なのか。

悲しそう「な表情の意味は…なんなんだろう。

でも、少し記憶が戻った気がする。

…りくの事。

私とりくは恋人で、もう1年たったんだね。

…だから昨日、陸に会いたかったんだ。

一人でぼーっとしながら納得していると、ドアがノックされた。

トントン

「夏来ちゃーん?起きてるー?」

「は、はい!起きてます!」

ガラッ

「起きてたのね。あれ、ご飯食べてないけど…お腹すいてなかった?」

入ってきたのは、いつもご飯を運んでくれたり、点滴を打ったりしてくれる看護師さんだった。

「いえ!起きたばかりで…。今食べようと思ってたんです。」

「そう?よく眠ってたけど…夢でも見てた?」

「あ、はい。それで、陸のことを思い出しました。」

なんとなく本当のことを言うと、看護師さんは

「ええ!!記憶が戻ったのね?」

と驚いていた。少しだけなんだけどなぁ…。

「はい。…でも、りくのことだけで、後は何も…。」

「それでも戻ったことには変わりないわ。良かったわね…!」

「はい。」

一緒に喜んでくれる人がいるのは、素直に嬉しい。

「じゃあ、食べ終わったら机に置いといてね。」

「はい。いつもありがとうございます。」

「良いのよ。これが仕事だから。」

そう言って微笑むと、看護師さんは病室を出て行った。