『夢の中の会議』
睡眠は疲れをとるだけではなく、記憶の整理と定着のためには必須のものである。
そして、睡眠の時に見るのが夢。今日も誰かの夢の中。夢だけを好んで食す獏(ばく)は、うとうとと一匹、睡魔に襲われていた。しかし突如、睡魔を打ち消す淡い光が目の前に現れる。
「おや、今日は二人か……」
のそりと体を動かした獏は、淡い光から姿を見せた男性に歩み寄ると言った。
「こんばんは、私はこの夢の番人である獏です。さて、では簡潔に話を。あなたはここにくる前に夢を見たはずです。内容を覚えていますか? それは必ず正夢になるのです」
獏に話を聞いた青年は驚いた様子で目を見開くと、気持ちを落ち着かせるように唾を飲んでから、語りはじめた。
「正夢って……私には予知能力などないのに。これは夢の続きなんですよね?」
「はい夢です。しかし、あなたの夢ではなく、私が管理する場です。予知能力などなくとも、望めば誰でもくることはできるのですよ。ここは、未来をどのように過ごすか決める会議場なのですから」
「未来への会議場だって!」
「ええ、聞いたことありませんか? 顔で悩んでいる者は、前世にはモテすぎて悩んでいたとか。頭が良い者は前世には悪かったとか。金持ちは前世で貧乏だったとか。現世の運命は前世の会議で自分が決めているのですよ。そして、運命の分岐点でも、人はここにくるのです」
目の前に流暢に話す獏がいるのでは、話を疑う余地はない。男性は記憶を蘇らせるように目を閉じ、代わりに口を開いた。
「実は今日、デートをするのです。彼女が俺の誕生日を祝ってくれるために、予約までとってくれた高級レストランがあるのですが、そこに車で行く途中、迷ってしまうのです。彼女は戻るようにと言ってくれたのですが、俺はその忠告を聞かずに進んでしまって。最終的に進入禁止の場所に入ってしまい、それを警察車両に見つかって……喧嘩に発展してしまったんです」
「その先は見ましたか?」
「ええ、結局、予約したレストランには行けず、彼女との距離もはなれ、最終的に別れてしまいました」
「では、問題を解決するのは簡単ですね。道を間違えなければいいのです。それでは正しい判断ができるよう、修正の魔法をかけましょう」
獏は手のひらから七色に光る粉を出すと、それを男性に振りかける。
「はい、終わりです。あとはその判断の時を待つだけです。おやすみなさい、良い夢を」
獏がそう言うと、徐々に男性の姿が薄くなっていく。獏が管理する場ではなく、男性の夢の中に移動するためだ。
「獏さん、ありがとうございます。とても親身にしていただいて……きっと成功させます」
獏は去っていく男性に手を振って別れを告げると、長い鼻を動かしながら寝転んだ。
獏だけがいる空間に、獏の深い吐息が音として残る。そして、言葉は紡がれた。
「今日は僕の管理する夢に二人きたんだ。まさか、男性と女性のペアが別々にくるなんてね。きっと、あの二人は前世からつながっているんだろうねえ。甘くて美味しい夢が、ふたつも食べられそうで嬉しいや。最近、変な夢ばかりでおなかを壊し続けたからね」
それは誰も聞かない聞けない独り言だ。そして、獏はまたうとうとと睡魔に襲われる。
「正直いうと、あれは魔法なんかじゃないんだけどね。お互いがお互い、素直になるための、おまじないなのさ。だってそうだろう。想いに他者は干渉できない。ただ全力で応援するだけさ」
そういうと、獏は自分も良い夢を見ることができますようにと願いながら、静かに目を閉じた。
睡眠は疲れをとるだけではなく、記憶の整理と定着のためには必須のものである。
そして、睡眠の時に見るのが夢。今日も誰かの夢の中。夢だけを好んで食す獏(ばく)は、うとうとと一匹、睡魔に襲われていた。しかし突如、睡魔を打ち消す淡い光が目の前に現れる。
「おや、今日は二人か……」
のそりと体を動かした獏は、淡い光から姿を見せた男性に歩み寄ると言った。
「こんばんは、私はこの夢の番人である獏です。さて、では簡潔に話を。あなたはここにくる前に夢を見たはずです。内容を覚えていますか? それは必ず正夢になるのです」
獏に話を聞いた青年は驚いた様子で目を見開くと、気持ちを落ち着かせるように唾を飲んでから、語りはじめた。
「正夢って……私には予知能力などないのに。これは夢の続きなんですよね?」
「はい夢です。しかし、あなたの夢ではなく、私が管理する場です。予知能力などなくとも、望めば誰でもくることはできるのですよ。ここは、未来をどのように過ごすか決める会議場なのですから」
「未来への会議場だって!」
「ええ、聞いたことありませんか? 顔で悩んでいる者は、前世にはモテすぎて悩んでいたとか。頭が良い者は前世には悪かったとか。金持ちは前世で貧乏だったとか。現世の運命は前世の会議で自分が決めているのですよ。そして、運命の分岐点でも、人はここにくるのです」
目の前に流暢に話す獏がいるのでは、話を疑う余地はない。男性は記憶を蘇らせるように目を閉じ、代わりに口を開いた。
「実は今日、デートをするのです。彼女が俺の誕生日を祝ってくれるために、予約までとってくれた高級レストランがあるのですが、そこに車で行く途中、迷ってしまうのです。彼女は戻るようにと言ってくれたのですが、俺はその忠告を聞かずに進んでしまって。最終的に進入禁止の場所に入ってしまい、それを警察車両に見つかって……喧嘩に発展してしまったんです」
「その先は見ましたか?」
「ええ、結局、予約したレストランには行けず、彼女との距離もはなれ、最終的に別れてしまいました」
「では、問題を解決するのは簡単ですね。道を間違えなければいいのです。それでは正しい判断ができるよう、修正の魔法をかけましょう」
獏は手のひらから七色に光る粉を出すと、それを男性に振りかける。
「はい、終わりです。あとはその判断の時を待つだけです。おやすみなさい、良い夢を」
獏がそう言うと、徐々に男性の姿が薄くなっていく。獏が管理する場ではなく、男性の夢の中に移動するためだ。
「獏さん、ありがとうございます。とても親身にしていただいて……きっと成功させます」
獏は去っていく男性に手を振って別れを告げると、長い鼻を動かしながら寝転んだ。
獏だけがいる空間に、獏の深い吐息が音として残る。そして、言葉は紡がれた。
「今日は僕の管理する夢に二人きたんだ。まさか、男性と女性のペアが別々にくるなんてね。きっと、あの二人は前世からつながっているんだろうねえ。甘くて美味しい夢が、ふたつも食べられそうで嬉しいや。最近、変な夢ばかりでおなかを壊し続けたからね」
それは誰も聞かない聞けない独り言だ。そして、獏はまたうとうとと睡魔に襲われる。
「正直いうと、あれは魔法なんかじゃないんだけどね。お互いがお互い、素直になるための、おまじないなのさ。だってそうだろう。想いに他者は干渉できない。ただ全力で応援するだけさ」
そういうと、獏は自分も良い夢を見ることができますようにと願いながら、静かに目を閉じた。



