短編集 ~一息~

『運命の輪』

 輪廻転生と幽霊、どちらを信じますか? と訊かれたら、俺は迷わず輪廻転生と答える。
 幼少の頃からずっと同じ夢を見続けてきた。海が見える教会で結婚式をあげている俺と女性の姿。あまりにも鮮明な夢なので、俺は女性が前世の妻であると確信したのだ。
 それ以来、人が魂になった後は幽霊になるのではなく、転生するものだと信じた。
 そうなると、前世の結婚相手だった女性が気になるのは当たり前ともいえるだろう。
 俺は人生のパートナーを捜す旅人になると決めた。宅配業の傍ら、様々な出会いの場を求めた。旅行をし、合コンに参加し、習い事もする。
 しかし、目的の女性に会えない。諦めきれずに社長に頼みこみ、引っ越しを繰り返しては、転属も繰り返し宅配を続けた。
 玄関を開けてもらう度に、ここの住民たちは違ったかと息を吐きながら、地図にバツをつけていく。一体、誰を捜しているのかと同僚に訊かれたくらいだ。
 そんなある日、俺は同僚に「似顔絵を書いて見てくれよ」と言われた。
 イメージをかたちにするのに悪戦苦闘しながら鉛筆をはしらせると、同僚が「あっ!」と声をあげた。
「俺の友達にさ。バスガイドがいるんだけど、すごく似ているんだ。そいつも引っ越しが好きでさ。何でって訊いたら、人捜しをするうちに引っ越しが好きになったって」
 相手も引っ越しを繰り返していたら、自分がどんなに頑張っても見つけられないはずだ。もしかしたら、互いにすれ違っていたかもしれない。そして、人を捜しているというのは、自分と同じように彼女にも前世の記憶があるからかもしれない。
 想像が確信に変わり、期待へと変わっていく。まだ見ぬ女性に会いたいという気持ちが強くなっていく。
「その女性の住所を教えてくれないか」
 身を乗り出して言う俺に、同僚は嫌な予感でもしたのだろうか。
「お願いだから、ストーカーにはならないでくれよ」
 そう三度ほど確認され、ようやく住所を聞くことができた。
 女性が住んでいる場所は職場から遠くなかった。しかし、自分の配達範囲からはずれているので、小包を届けるついでに女性の顔を見ることはできない。
 そのため、休日に女性の顔を確認しに、住所の場所へ行くことにした。
 女性宅に向かう道が何故か懐かしく感じたのは気のせいだろうか。人生のパートナーを探す旅もこれで終わるかもしれない。そんな期待と、もし違ったらという不安で鼓動が高まっていく。
 女性の家に到着したものの、初対面で顔を合わせる理由もないので、女性が表に出てくるのを隠れて待ち構えた。仕事の合間を見ては訪れるということを繰り返し、待つこと一時間。
「あっ!」
 女性が姿を見せた時には、思わず驚きの声が出た。夢に何度も出てきた彼女に間違いなかった。しかも、女性の自宅を背景に自分と彼女が立つ姿が鮮明に目の前に浮かぶ。
「どうりで懐かしいと感じたはずだ。ここは俺が前世に住んでいた家だ。彼女とともに住んでいた家だ」
 ただ似ているということだけではない。彼女も前世の記憶を持っているに違いない。
 意を決して話しかけようと前に出る。すると、女性も俺に気づいたのだろう。俺を見て微笑み、駆け寄ってきた。
「やっぱり、会いにきてくれたのね。私の愛しい人。前世ではうまくいかなかったけど、今度はちゃんとこの新居でやり直しましょう」
 女性の笑顔に俺も笑顔で返す。しかし、そこでホワイトアウトが起き、俺は衝撃の光景を見ていた。
 目の前にいる女性と同じ顔をした女性が、大理石の灰皿を振り上げている姿。
「私という女がありながら浮気して!」
 ストイックに叫ぶ女性が、その灰皿を何かに叩きつける鈍い音が響いて――。
 もとに戻った途端、俺は嫌な汗を大量にかく。この先、俺は彼女とうまくやっていけるのだろうか。それは、輪廻転生という因果な輪を生み出した、神のみぞ知ることなのかもしれない。