『お互いがお互いに』
ある家にスピッツ犬がいました。名前はムース。白くてふわふわしているので、そう名付けてもらったのです。
外で飼われているムースですが、いつもお母さんが朝と夕方の二回散歩をしてくれます。散歩に行くと公園には、たくさんの友達がいます。ムースはこの時間が一番好きです。けれど、遠くまで行きたいのに綱があって行けません。
「遠くまで行けたら、思いっきり競争ができるのにな」
散歩から帰ってきたムースですが、みんなと思いっきり駆けることができなくて満足していませんでした。いつもと同じドッグフードをかじりながら息を吐きます。
そんなムースの目の前に一匹の鳥が降りてきました。
「なんだ、浮かない顔して。その食べ物美味そうだな。ご相伴にあずからせてもらっていいかい?」
ムースの食が進んでいなかったからでしょう。見たこともない鳥は、そう言うと餌を口に入れました。鳥がドッグフードを食べているのを見ながら、ムースは言います。
「君はいいね。遠くまで飛べてさ。思いっきり飛べるってどんな感じなの?」
「妙なことを言うなあ。俺から見たら君だって、みんなと一緒に遊べるのだろう。羨ましいよ。俺は渡り鳥だから分散するんだ。だから、仲間といったら知らない顔しかいない」
「空を飛べるほうがいいよ」
「みんなと一緒に遊べるからいいじゃないか」
お互いが相手を羨ましがって、すこし険悪な雰囲気になってしまいます。鳥はムースから目を逸らすと「またな」と言って、飛んで行ってしまいました。
「何だよ、あいつ。気紛れな奴だな」
頬を膨らませたムースは、鳥が飛んでいった空を見ながらつぶやきました。
それから数週間後のことです。ムースは散歩に連れて行ってもらえなくなりました。
家の中からは赤ん坊の泣き声が聞こえてきます。赤ちゃんの世話で、いつも散歩に連れて行ってくれる、お母さんが外に出られなくなったのです。
「みんなと一緒に遊べないなんて寂しいな……お母さんも、あまり僕を構ってくれない」
ムースは、涙ですこししょっぱくなったドッグフードをかじりながら、息を吐きます。
その時です。ムースの目の前に一匹の鳥が降りてきました。
「あっ、君はこの前の!」
「ツグミのフウっていう名だ。ご相伴にあずからせてもらっていいかい?」
フウはそういうと不格好な体勢でドッグフードを食べはじめます。すぐにムースは、フウの異常に気がつきました。
「羽根、怪我したの? すごく痛そうだけど……」
「仲間がカラスに襲われているのを見て、ちょっとね」
「あまり飛べないの?」
「君も、みんなと一緒に遊んでないみたいじゃないか」
お互いが相手のことを心配して、すこししんみりとなってしまいます。
「フウ……良かったら、僕の小屋で休まない? その怪我だと、またカラスに襲われるかもしれないだろ。そして、僕の友達になってよ」
ツグミのフウは驚いた表情で、ムースをじっと見ます。
「そりゃ助かるけど、大丈夫なのか?」
「鳥くらいは入れるよ。ご飯もあるし、僕、寝返りしてフウを潰さないから大丈夫!」
「潰されるのは勘弁だな。じゃあ、お言葉にあまえて」
フウは渡り鳥です。羽根を怪我してしまっては、故郷に戻ることもできません。
スピッツ犬のムースとツグミのフウの友達関係は、ムースの家のお母さんが赤ん坊の世話に慣れるまで、フウの羽根の傷が癒えるまでの一年間続きました。
そして、ツグミが渡りに飛ぶ季節、フウは羽根をばたつかせます。
「じゃあ、世話になったな。行くよ」
「寂しくなるなあ……」
ムースが鼻を鳴らしながら言ったのを背中越しに聞きながら、フウは笑います。
「散歩に行って、友達と一緒に遊べるようになったからいいじゃないか」
「うん、フウも空を飛べるようになったもんね」
お互い、相手が元通りになったのを喜びあいます。
「またくるよ。ドッグフードを食べに」
「うん、フウは僕の大切な友達だよ。だから、気をつけて故郷に帰ってね」
お互いがお互い、大切なものを羨ましがることはもうありません。
だって、自分の良い部分と相手の良い部分を知ることができたのですから。
天気は快晴。散歩日和でもあり、旅立ち日和です。
ムースが散歩に出掛けるとともに、フウも故郷に向けて飛び立っていたのでした。
ある家にスピッツ犬がいました。名前はムース。白くてふわふわしているので、そう名付けてもらったのです。
外で飼われているムースですが、いつもお母さんが朝と夕方の二回散歩をしてくれます。散歩に行くと公園には、たくさんの友達がいます。ムースはこの時間が一番好きです。けれど、遠くまで行きたいのに綱があって行けません。
「遠くまで行けたら、思いっきり競争ができるのにな」
散歩から帰ってきたムースですが、みんなと思いっきり駆けることができなくて満足していませんでした。いつもと同じドッグフードをかじりながら息を吐きます。
そんなムースの目の前に一匹の鳥が降りてきました。
「なんだ、浮かない顔して。その食べ物美味そうだな。ご相伴にあずからせてもらっていいかい?」
ムースの食が進んでいなかったからでしょう。見たこともない鳥は、そう言うと餌を口に入れました。鳥がドッグフードを食べているのを見ながら、ムースは言います。
「君はいいね。遠くまで飛べてさ。思いっきり飛べるってどんな感じなの?」
「妙なことを言うなあ。俺から見たら君だって、みんなと一緒に遊べるのだろう。羨ましいよ。俺は渡り鳥だから分散するんだ。だから、仲間といったら知らない顔しかいない」
「空を飛べるほうがいいよ」
「みんなと一緒に遊べるからいいじゃないか」
お互いが相手を羨ましがって、すこし険悪な雰囲気になってしまいます。鳥はムースから目を逸らすと「またな」と言って、飛んで行ってしまいました。
「何だよ、あいつ。気紛れな奴だな」
頬を膨らませたムースは、鳥が飛んでいった空を見ながらつぶやきました。
それから数週間後のことです。ムースは散歩に連れて行ってもらえなくなりました。
家の中からは赤ん坊の泣き声が聞こえてきます。赤ちゃんの世話で、いつも散歩に連れて行ってくれる、お母さんが外に出られなくなったのです。
「みんなと一緒に遊べないなんて寂しいな……お母さんも、あまり僕を構ってくれない」
ムースは、涙ですこししょっぱくなったドッグフードをかじりながら、息を吐きます。
その時です。ムースの目の前に一匹の鳥が降りてきました。
「あっ、君はこの前の!」
「ツグミのフウっていう名だ。ご相伴にあずからせてもらっていいかい?」
フウはそういうと不格好な体勢でドッグフードを食べはじめます。すぐにムースは、フウの異常に気がつきました。
「羽根、怪我したの? すごく痛そうだけど……」
「仲間がカラスに襲われているのを見て、ちょっとね」
「あまり飛べないの?」
「君も、みんなと一緒に遊んでないみたいじゃないか」
お互いが相手のことを心配して、すこししんみりとなってしまいます。
「フウ……良かったら、僕の小屋で休まない? その怪我だと、またカラスに襲われるかもしれないだろ。そして、僕の友達になってよ」
ツグミのフウは驚いた表情で、ムースをじっと見ます。
「そりゃ助かるけど、大丈夫なのか?」
「鳥くらいは入れるよ。ご飯もあるし、僕、寝返りしてフウを潰さないから大丈夫!」
「潰されるのは勘弁だな。じゃあ、お言葉にあまえて」
フウは渡り鳥です。羽根を怪我してしまっては、故郷に戻ることもできません。
スピッツ犬のムースとツグミのフウの友達関係は、ムースの家のお母さんが赤ん坊の世話に慣れるまで、フウの羽根の傷が癒えるまでの一年間続きました。
そして、ツグミが渡りに飛ぶ季節、フウは羽根をばたつかせます。
「じゃあ、世話になったな。行くよ」
「寂しくなるなあ……」
ムースが鼻を鳴らしながら言ったのを背中越しに聞きながら、フウは笑います。
「散歩に行って、友達と一緒に遊べるようになったからいいじゃないか」
「うん、フウも空を飛べるようになったもんね」
お互い、相手が元通りになったのを喜びあいます。
「またくるよ。ドッグフードを食べに」
「うん、フウは僕の大切な友達だよ。だから、気をつけて故郷に帰ってね」
お互いがお互い、大切なものを羨ましがることはもうありません。
だって、自分の良い部分と相手の良い部分を知ることができたのですから。
天気は快晴。散歩日和でもあり、旅立ち日和です。
ムースが散歩に出掛けるとともに、フウも故郷に向けて飛び立っていたのでした。



