短編集 ~一息~

『宇宙交流』

 ここは宇宙通信所。過ぎ去る時間は、いつも通り至って静かだ。しかし、ここでは静寂は歓迎されない。興奮すべきことが起きなければいけないのだから。
「班長、大変です。いえ、どうか驚いてください。微弱ですが反応が」
「なにっ、場所はどこだ? 場所を言え!」
 現場がにわかに騒がしくなり、席に着いている全ての者の顔が興奮で紅潮した。
「サ……ニ……ダ」
 聞こえてくるのは確かに声だ。そして、聞いたこともない言語に皆が息を呑む。そこにいる誰もが感じていた。これは宇宙人かもしれないと。
 宇宙人とはファーストコンタクトが重要だ。それはここにいる誰もが知っていた。地球人にとっては好意を示す言葉であっても、むこうは敵意を感じるかもしれないからだ。
「解読班どうだ? 解読できるか?」
「無理です。会話数が少ないので……あちらの交信をもう少し聞かないと」
 慎重に考えれば考えるほど、時間は過ぎていく。音楽を鳴らすか。手を叩くか。こんにちはと言ってみるか。その全てが、「お前たちを攻撃する」の意味であったなら、宇宙戦争にもなりかねないので必死だ。
 その時だ。不意に音楽が鳴った。どうやらむこうが先に、こちらの反応を確かめたようだ。即座に音楽が録音され、これをどうするかと協議がはじまる。
「何もしないというわけにもいかないな。音楽をそのまま返そう」
 録音した音楽を返すと、今度は違う音楽が返ってくる。その音楽を録音して返す。数回それが行われると、違う反応があった。
「おはようございます。こんにちは、元気ですか」
 片言の地球の言葉だ。班長が安堵の息を漏らす。はじめから敵対を考えている相手なら、この反応はない。友好関係を結ぶことで互いに見えてくることもあるだろう。
「こんにちは、元気です。そちらはどうですか」
 これまた当たり障りのない会話が続いていく。
 地球側としては必死だ。初の宇宙交流なのだから。しかも相手は翻訳も可能な、高度な文明のようだ。そうとなると期待は大きい。
 相手の翻訳能力が高いとわかると、徐々に話も自分たちを紹介する説明になっていく。
「地球には命を育む水があります。生き物もたくさんいます。自然も豊かです」
「それは素敵ですね。私たちの星は地球より大きいです。けれど、住んでいる人口は地球より少ないと思います」
 そして、ついに宇宙人のほうから、
「私たちは、あなた方と友達になりたいです。是非、仲良くしましょう」
 望んでいた話がきた。皆が歓喜の声をあげ、班長は喜びを声に出さず、拳を突き上げて表現する。
「私たちも、あなた方と仲良くしたいです」
「それは嬉しいです。では、よろしくお願いします」
 それを最後に通信が途切れた。よろしくお願いしますとは、これからくるという意味なのだろうか。皆が、真意を理解できずに顔を見合わせる。
「班長、画面を見てください。大変なことが……」
 皆が画面を見て息をとめる。そこには赤く燃える巨大な球体があった。更に赤い星は月に衝突して、接近してくる。
「では、これから、お付き合いをよろしくお願いいたします」
 他意は全く感じない気さくな口調。更に言葉は続けられる。
「何故か、私たちが友好的に話しかけ、ハグをしても嫌われるばかりなのです。自然も生き物も豊かとのこと。我が星にはないものなので、楽しみにしています」
 間近に迫った燃える星と宇宙人の返信を聞いて、通信所の者たち全員が震える。
「私たちは、どんな生物と友好的な交流をしようとしているんだ……」
 しかし、今、どんなに悩んでも応答してくる宇宙人の声はない。ただ、目の前の画像には、赤く燃える無数の宇宙船が地球に降下する様子が映し出されていた。