『まぜたら危険?』
ある科学者が、人類史上初となる発明品を開発した。
極秘で作り出した発明品を前に、科学者は満面の笑みを浮かべる。
「ようやく長年の夢が叶ったな。これが二つのものを一つにする合体装置だ!」
右には赤のボックス。左には青のボックス。この各々のボックスに合体させたいものを入れたら、中央の紫色のボックスから、合体されたものが出てくるという発明品だ。
ところが、満足そうな科学者を横に、助手は何故か表情がかたい。
「どうした。浮かない顔だな。さっそく実験してみようか」
科学者は飼育ケースからネズミを取り出すと、助手に顎を動かして指示した。
「君はウサギを連れてきてくれ」
助手はウサギを飼育ケースから出すと、次の指示を待つように目配せした。
「うむ。では、ウサギは青のボックスに入れてくれ。わしはネズミを赤のボックスに入れる」
「あのう。成功するのでしょうか」
ようやくそこで口を閉ざしていた助手が、科学者に訊いた。
「君は難しく考えすぎだな。分子レベルにして結合させるわけではない。遺伝子レベルで結合させる装置だと説明したはずだぞ。つまり、両方の良いところを取って、ひとつにするわけだな」
「はあ」
吐息とも思える返事をした助手は、ウサギを青のボックスに入れた。それを見た科学者もネズミを赤のボックスに入れて、合体装置のスイッチを押す。
装置は奇妙な機械音を鳴らしながら動くと、五個あるランプを一個ずつ灯していき、五個目を灯したところで停止した。
「さあ、ネズミとウサギの合体生物。マビットの誕生だぞ!」
「マウスとラビットの文字を取ってですか。ラウスでもよいと思うのですが」
そういった助手を科学者は一瞥すると、紫のボックスからマビットを取り出して見せた。
体はウサギよりも小さくネズミより大きい。耳はウサギより小さく、尾はネズミより短い生物だ。
「語呂がいいのはマビットだろう。さて、歩かせてみようか」
床におろされたマビットは、しばらくひげを動かすと、軽く前に跳んでみせた。
「ほほう。跳んで進むのか。ひげもよく動かしているな。これはネズミの習性だろう」
科学者は合体動物を見ながら観察メモを事細かに取っていく。助手は何も言わず、ただ立っているだけだ。
「では、今度は分離させるか」
ひと通り、マビットの動きを観察し、大きさと体重を量り、血液を取った科学者は、合体動物を紫のボックスに入れた。そして、ボタンを押すと、今度は赤のボックスからネズミを。青のボックスからウサギを取り出す。
しばらく観察してから、異状なしと判断した科学者は胸を撫でおろして助手を見た。
「では、当初の予定通り、人体実験をはじめるか」
これに助手は跳びあがると唾を飲んでいた。
科学者が、この知識がない助手を雇っていた理由は、人体実験のためというのが大きな理由だった。高身長でルックスも顔も申し分ない。女性が一目惚れする外見。その助手の外見と若さを理由に選んでいたのだ。合体装置で人体実験をするために――。
「君の容姿で、わしの頭脳。完璧だと思わないか。分離実験も成功したことだし、すぐにでもはじめよう」
自分の発明品なので、科学者の自信は揺るぎない。しかし、助手は発明品を作る過程だけを見てきた素人なので一歩退いた。
「しかし……まだ人体実験ははやいのでは?」
「四の五のいうより結果だ。文句を言わずに入れ」
ボックスに助手を無理やり入れた科学者は、合体スイッチを自動設定にしてから自分もボックスに入る。
そして、程なくして装置は作動し、紫のボックスからひとりの男が出た。
「なんだか不思議な感覚だな。空を飛んでいるような気がする」
「意識は両者ともにあるのですね。消えてしまうのかと思いました」
「なんだ。それを心配していたのか。わしもそれくらいは考慮しているし、君の体を奪おうと思うほど外道でもない。さて、鏡を見てみるか」
歩くというよりも、まだ合体で慣れない足を動かしながら、テーブルに置いてあった手鏡を手にして見る。その途端、科学者は声をあげた。
「何だ。これは! 顔が私じゃないか。こんなはずでは……再実験だ」
科学者はそういうと、何度も合体と分離を繰り返す。入るボックスも何度も変えた。しかし、結果は変わらなかった。
最終的に分離した状態となり、科学者は肩を落とす。何もできない助手を雇っていたのだから出費のダメージも大きい。
「あれはマビットではなく、ラウスだったのかもしれないですね」
助手はボソリと呟くと更に続けた。
「アインシュタインにマリリンモンローがプロポーズしたという話がありますが、その言葉が『私の美貌とあなたの頭脳を持った子供が生まれたら、素晴らしいと思わない?』だったそうです。これにアインシュタインは、『生まれてくる子供が私の顔とあなたの頭脳を持っているかもしれないよ』と答えたとか」
「……その後者になったというわけか。わしの努力はなんだったんだ」
落胆した科学者に今までの覇気はない。その科学者に助手は言った。
「しかしね。この容姿をもって生まれても、独立できなかった私ですから。何でも可能にする先生が羨ましかったというのが事実です。それなので、今後は正式な助手としてよろしくお願いいたします。さて、この合体装置をうまく使う方法を考えましょうか」
ある科学者が、人類史上初となる発明品を開発した。
極秘で作り出した発明品を前に、科学者は満面の笑みを浮かべる。
「ようやく長年の夢が叶ったな。これが二つのものを一つにする合体装置だ!」
右には赤のボックス。左には青のボックス。この各々のボックスに合体させたいものを入れたら、中央の紫色のボックスから、合体されたものが出てくるという発明品だ。
ところが、満足そうな科学者を横に、助手は何故か表情がかたい。
「どうした。浮かない顔だな。さっそく実験してみようか」
科学者は飼育ケースからネズミを取り出すと、助手に顎を動かして指示した。
「君はウサギを連れてきてくれ」
助手はウサギを飼育ケースから出すと、次の指示を待つように目配せした。
「うむ。では、ウサギは青のボックスに入れてくれ。わしはネズミを赤のボックスに入れる」
「あのう。成功するのでしょうか」
ようやくそこで口を閉ざしていた助手が、科学者に訊いた。
「君は難しく考えすぎだな。分子レベルにして結合させるわけではない。遺伝子レベルで結合させる装置だと説明したはずだぞ。つまり、両方の良いところを取って、ひとつにするわけだな」
「はあ」
吐息とも思える返事をした助手は、ウサギを青のボックスに入れた。それを見た科学者もネズミを赤のボックスに入れて、合体装置のスイッチを押す。
装置は奇妙な機械音を鳴らしながら動くと、五個あるランプを一個ずつ灯していき、五個目を灯したところで停止した。
「さあ、ネズミとウサギの合体生物。マビットの誕生だぞ!」
「マウスとラビットの文字を取ってですか。ラウスでもよいと思うのですが」
そういった助手を科学者は一瞥すると、紫のボックスからマビットを取り出して見せた。
体はウサギよりも小さくネズミより大きい。耳はウサギより小さく、尾はネズミより短い生物だ。
「語呂がいいのはマビットだろう。さて、歩かせてみようか」
床におろされたマビットは、しばらくひげを動かすと、軽く前に跳んでみせた。
「ほほう。跳んで進むのか。ひげもよく動かしているな。これはネズミの習性だろう」
科学者は合体動物を見ながら観察メモを事細かに取っていく。助手は何も言わず、ただ立っているだけだ。
「では、今度は分離させるか」
ひと通り、マビットの動きを観察し、大きさと体重を量り、血液を取った科学者は、合体動物を紫のボックスに入れた。そして、ボタンを押すと、今度は赤のボックスからネズミを。青のボックスからウサギを取り出す。
しばらく観察してから、異状なしと判断した科学者は胸を撫でおろして助手を見た。
「では、当初の予定通り、人体実験をはじめるか」
これに助手は跳びあがると唾を飲んでいた。
科学者が、この知識がない助手を雇っていた理由は、人体実験のためというのが大きな理由だった。高身長でルックスも顔も申し分ない。女性が一目惚れする外見。その助手の外見と若さを理由に選んでいたのだ。合体装置で人体実験をするために――。
「君の容姿で、わしの頭脳。完璧だと思わないか。分離実験も成功したことだし、すぐにでもはじめよう」
自分の発明品なので、科学者の自信は揺るぎない。しかし、助手は発明品を作る過程だけを見てきた素人なので一歩退いた。
「しかし……まだ人体実験ははやいのでは?」
「四の五のいうより結果だ。文句を言わずに入れ」
ボックスに助手を無理やり入れた科学者は、合体スイッチを自動設定にしてから自分もボックスに入る。
そして、程なくして装置は作動し、紫のボックスからひとりの男が出た。
「なんだか不思議な感覚だな。空を飛んでいるような気がする」
「意識は両者ともにあるのですね。消えてしまうのかと思いました」
「なんだ。それを心配していたのか。わしもそれくらいは考慮しているし、君の体を奪おうと思うほど外道でもない。さて、鏡を見てみるか」
歩くというよりも、まだ合体で慣れない足を動かしながら、テーブルに置いてあった手鏡を手にして見る。その途端、科学者は声をあげた。
「何だ。これは! 顔が私じゃないか。こんなはずでは……再実験だ」
科学者はそういうと、何度も合体と分離を繰り返す。入るボックスも何度も変えた。しかし、結果は変わらなかった。
最終的に分離した状態となり、科学者は肩を落とす。何もできない助手を雇っていたのだから出費のダメージも大きい。
「あれはマビットではなく、ラウスだったのかもしれないですね」
助手はボソリと呟くと更に続けた。
「アインシュタインにマリリンモンローがプロポーズしたという話がありますが、その言葉が『私の美貌とあなたの頭脳を持った子供が生まれたら、素晴らしいと思わない?』だったそうです。これにアインシュタインは、『生まれてくる子供が私の顔とあなたの頭脳を持っているかもしれないよ』と答えたとか」
「……その後者になったというわけか。わしの努力はなんだったんだ」
落胆した科学者に今までの覇気はない。その科学者に助手は言った。
「しかしね。この容姿をもって生まれても、独立できなかった私ですから。何でも可能にする先生が羨ましかったというのが事実です。それなので、今後は正式な助手としてよろしくお願いいたします。さて、この合体装置をうまく使う方法を考えましょうか」



