短編集 ~一息~

『あたらない正夢』

 男は自分の体質に悩んでいた。
 食物アレルギーや性向などではない。特異な能力の持ち主であることに。
 そして今日も、男は目覚まし時計に起こされて重い息を吐く。
「まずいな……今回のは最悪だ」
 見た夢が現実となる正夢。彼はその正夢を見ることができる体質だった。
 これが空想上の世界が舞台の夢なら問題はないのだが、現実世界の話だと九分九厘当たるのだ。
 夢を選んで見ることができるなら、これほど嬉しい能力はないだろう。
 賭け事をしたら億万長者になれるし、夢を操作して自分好みの未来を構築していくこともできる。
 が、男の場合は違う。問答無用で不幸になる正夢まで見てしまう。
 今日、見た夢は友人が信号無視で事故に遭って死ぬというものだった。
「言うべきかな。けどな。またズレが生じそうだし」
 そして、男を悩ませているのは、正夢を見ることができるという体質だけではなかった。
 正夢を見たと被害に遭う人物に告知するのだが、そうすると何故かはずれてしまうのだ。
 この場所に行くと危険と知らされたら、誰だって行く気にはならないだろう。そのため、本来なら受ける被害を無意識のうちに回避するという現象が起こるのだ。
 正夢を見たと教える度に嘘つき呼ばわりされてきた男は、憂鬱な気持ちになる。
 今回、夢に出てきたのは何度か危険を回避している友人だ。同時に何度も嘘つき呼ばわりされている。
「言わないと……けれどまた嘘つきって言われるだろうし。どうするか」
 黙っていて死なれでもしたら、正夢なだけに夢見が悪い。
 男は頭の中を整理しながら朝風呂に入る。悩みに悩み、ある方法を思いついた。
 すぐに携帯電話で友人に連絡を取る。まだ、起きたばかりだったのだろう。寝ぼけた口調で友人は「こんなに朝早く……何だよ」とぼやいた。
「今日、お前に大変なことが起きるから気をつけろよ」
「は? どういう意味だよ。また正夢か。当たった例がないもんなぁ」
「とにかく、外に出た時には気をつけろ。気をつけたら被害が少なくてすむから」
 友人は愚痴をこぼしながら電話を切った。取り敢えず報告をして安堵した男も、仕事に出かける。
 今までしたことがない正夢の対応。確信はないが大丈夫のはずと考えていた。

 すると案の定、仕事から帰った時に電話がかかってきた。
 着信番号を見ると友人だ。受話器に耳をあてると元気な声が聞こえてきた。
「お前の正夢、はじめて当たったよ。本当だったんだな。教えてくれて、ありがとう」
 興奮しているのだろう。電話越しの声には荒い息遣いも混じっている。
「それで、被害は少なくてすんだのか?」
「ああ、目の前で正面衝突事故が起きてさ。あと少し前に出ていたら終わりだったな」
 正夢とは違う事故だが――。
 それでも友人の無事と同時に、信頼も得られて彼はホッとした。
 そう完全に当たらなくても、信頼を得た状態で危険を回避してもらえればいいのだ。
 予言で有名になることは本意ではないのだから。
 では過去の預言者たちは?
 彼は睡魔に襲われながら、複雑な心境で布団に入った。