『適中』

 人間とは不思議なもので、示された幸運が舞い降りると奇跡と感じてしまう性質らしい。
 それを証拠に、ある建物の地下の占い店は毎日盛況していた。
 とにかく当たるのだ。占い通りに行動を起こしたら、幸せになったという女性は数え切れない。
 噂が噂を呼び、ネットでも話題となり、占い師の名は全国に知られるところとなった。
 今日も幸せになりたいと悩みを相談する女性が、占いの館に訪れる。
 香で満たされた部屋の中に入った女性の顔を、水晶玉が反射させた光が照らした。
「ようこそ、予約されたかたですね。アンケートで確認しました。では、さらに詳しく教えてください」
 淡々と発せられる占い師の口調に、安心した女性が語りはじめる。
「出会いがないんです。仕事場でも理想の男性はいます。けれど、思い切りがないというか」
「それは、その男性と結ばれる方法を訊きたいということでしょうか。新たな出会いを求めているということでしょうか」
「素敵な出会いがあると私は幸せです。けれど、そのためにはどうしたら……」
 占い師は水晶に手をかざすと、なにやら唱えはじめた。どの国の言語にもあてはまらない、音波のような不思議な声だ。
「あなたの未来が見えました。二時間後、運命の人があなたのもとに訪れます。但し、幸せは常に逃げていくもの。つかまなければいけません」
「では、どうすれば」
「このクリスタルを首に掛け、駅前の噴水で待つのです」
 クリスタルの価格は五千円。高額というものでもない。
 女性はこれで出会いがあるならと、クリスタルを購入した。
「素晴らしい出会いと幸せがあなたのもとに訪れるように」
 不安そうな顔で去っていこうとする女性に、占い師は声をかけた。
「私の占いに嘘はありませんよ。幸せの欠片が見つからなければ、いつでもクリスタルを返品してください」
 占い師の心強い後押しで力を得たのか、女性は首を縦に振ると意志のこもった眼差しで出ていった。
 女性を見送った占い師は息を吐くと、携帯電話をかける。そして、電話越しの相手に言った。
「二時間後噴水の前に、頼んだ男性を待たせておいて。目印は首にクリスタルを掛けた女性よ」
 電話を切った占い師に、助手が飲み物を持ってくる。
「おつかれさまです。お見合いは盛況のようですね」
 助手の渡した飲み物を口にすると、占い師は笑った。
「誰でも道を示されれば、幸せを見つけられるものなのよ。この場合は私もお見合い助勢店を営んでいる私の妹も、収入があって幸せね。子供が産まれれば少子化も防げて尚幸せ。後は、あなたも私の跡を継いで独立できると……」
「さらに幸せですね」
 占い師は話が終わると、次の客を招き入れた。