短編集 ~一息~

『面の皮』

 ある一流企業の待合室に、身なりを整えた青年十人が、重厚な空気をまとって座っていた。
 誰もが緊張した面持ちで一言も話さない。採用される人数が五名と決まっていたからであった。
 将来の競争相手になるだけではなく、踏み台にするべき相手と同じ部屋にいるのだ。
 入室してきた面接官が「もっと肩の力を抜いていいよ」と言っても、彼らには無理な注文でしかない。
 しかもその企業は、就職難や不景気といわれる中でも変わることのない、高額な給与とボーナスを支給していた。
 そのため、第一志望としてあげられる競争率の高い企業でもある。
 面接にくるのは一流大学を卒業したエリートばかりだ。彼らの履歴書にも誤字はない。面接官の質問にも迷わない。
 ――ボロを出してしまった者は終わり。完璧人間でなければ確実に落とされる。
 彼らの中では、既に競争がはじまっていたのだ。
 ところが、いざ面接となると十人全員が呼び出された。通常、面接は一対一だ。
 当然、青年たちは困惑した。適性検査なら同じ場所でやるが、今日は面接と言われていたからだ。
 十人全員が席に着いたのを確認すると、面接官は質問をはじめた。
「では、我が社を志望した動機を訊こうか」
 一人目、二人目と答えていく。みなが似た動機なのに対し、最後のひとりが胸を張って答えた。
「今の企業をぶち壊したいからです。でかい場所だとそれができると思ったんですよね」
 突拍子もない発言に面接官は目を丸くした。横には社長や社長の息子もいたからだ。
「次に……自分の性格を語るとすると、どんな人物なのか」
 一人目、二人目と答えていく。みなが似た説明なのに対し、最後のひとりがまた胸を張って答えた。
「目立ちたがり屋ですね。そして俺、誰にも負けたことないんで、負けず嫌いです」
 彼が答えた瞬間、「もういい」と社長が口にした。そして彼の前に立つ。
「気に入ったぞ若造。君は採用だ。他の者は追って連絡をするので、詳しいことは面接官に聞きたまえ」
 言って社長は部屋を出た。面接官は重い息を吐いて頭を抱えた。

 数時間後、社長と面接官は会議室にいた。誰を採用するか決定するためである。
 面接官は採用者を訊くよりも先に、社長に質問した。
「社長……なぜ、あの青年を採用したのですか? 私は納得がいきません」
 あの青年よりも優秀な人材はいたはずだ。天狗口調は企業の輪も乱しかねない。
 そんな面接官の質問に社長は冷静な表情になると、壁に貼ってある会社方針を指差した。
 そこには『他社が思いつかない個性的な企業を目指す。誇れる個性ある能力を身につける』とあった。
「君は気づかなかったのか。あの青年たち全員が会社方針を見ていた。それが理由だよ」
 面接官はただ会社方針を見ながら、大きな息を吐いて考えた。
 あの青年にそこまでの策略があったのなら。表面上の履歴者や面接など必要ないのかも知れない。
 そして、履歴書を束ねて段ボールの中に入れた。