『ある商品』

 今の時代からみて近未来とされる時の中で、ある商品が人気となっていた。
店に並ぶのは主に女性客で、全員が金に糸目をつけず、札束を入れた封筒片手に訪れる。
 だからといって景気が良いというわけではない。むしろ、景気はさがる一方だ。
 それでも女性たちが大金を手に店に飛びこんでくるのは、絶対に退けないという意志と、誰よりも一番でいたいという願望が、この店に詰まっているからであった。
「次の方、どうぞ……」
 最後尾から並んで、名前を呼ばれるまで待ち時間は三時間弱といったところだろうか。
 女性たちの願望が叶う場所は店の一番奥。薬品のにおいが漂う、真っ白な部屋の中だった。
一冊の本を手にした若い白衣の男が、入ってきた女性を見る。
「どうぞ、お座りください。緊張なさらずとも平気です。我が商品は十五万人の方が使用している安全性に優れた商品です。現在まで不良はありません。特許も得ています」
 白衣の男は女性の前で本を広げると、ページをめくった。商品数は合計二十。
 女性は選別をはじめると、ひとつの商品を指差す。
「これがいいわ……代金はいくらになるのかしら。あと、待ち時間は?」
 女性はくる前から商品を決めていたようで、かかった時間は数分たらずだった。
「それは一番人気です。使用されている方は約三万人ですね。お客さまだと、料金はこのくらいになります。品薄の商品ですので、待ち時間は二週間ほどですが、よろしいですか?」
 白衣の男が計算機に打ち出した金額を見て、女性は首を縦に振った。
 この商品に関しては、料金は現金前払いとなる。女性は札束が入った分厚い封筒を二個、テーブルに置いた。
 白衣の男は封筒の中身を確認すると予約表を出す。女性はそれに氏名、住所、電話番号を書いた。
「では、これで契約終了です。商品が到着次第、追って連絡いたします。先に申しあげておきますが、キャンセルはできません。いいですね?」
 再度、確認した白衣の男に、女性は真剣な面持ちで「はい」と答える。
 領収書を受け取った女性を見送ると、白衣の男は息を吐いた。
「なあ、君はどう思う? また一番人気だよ」
 白衣の男の視線の先には、助手の女性看護師の姿がある。彼女は笑いながら答えた。
「ご希望の顔に変えることができる商品のことですか? 女は美しい顔になりたいものですからね。わかる気もしますよ。けど、私は愛してくれているあなたがいれば、この顔のままでいいですよ。だって人間、外見よりも個性と信じていますからね」