雪は溶け、桜の花が咲き誇る4月。
俺が通う夕霧高校は今日が入学式だ。
とはいえ、俺は二年なので対した面白みもない。
教室はクラス替えや新入生の事で話題が持ち切りで、いつも以上に騒がしい。
俺は対してすることもないので、ぼんやりと窓の外の桜を眺めていた。
すると隣の席に座っている森杉晋平がこの教室には似つかわしくない程暗い声で
「宿題忘れた……。」
と呟くのが耳に届いた。
このアホはまた宿題忘れたのか、などと心の中で毒づきながらも自分のノートを差し出してしまうあたり、俺はコイツに甘いのだろう。
「さっすが孝行!俺のこと分かってんな!」
先程とは一転、眩しい程の笑顔を浮かべながら俺のノートを受け取る晋平。やはり放っておくべきだったか。
コイツ、森杉晋平は俺の唯一の幼なじみだった。
幼い頃から共に過ごす事が多く、頻繁に互いの家に泊まりに行く様な中だった。まぁ、今でもそうなのだが。近所のおばちゃん達は「晋ちゃんと孝ちゃんは仲良しさんねぇ~。」などと言うが、特別仲が良いという訳でもない。喧嘩なんてしょっちゅうするし、殴り合いになる事もしばしばある。要するに腐れ縁と言うやつだ。
だが、嫌っているという訳ではない。それなりに尊敬するところもあるからな。
「孝行、お前相変わらず字がきたねぇな!」
…前言撤回。コイツはただのアホだ。
「あっ、ちょっ、何でノート取るんだよ?!まだ全部写してねぇ!」
「やって来ないお前が悪い。」
騒ぐ晋平を軽くあしらい、ノートを机の中にしまう。しまうついでに取り出した愛読書を開き、読みはじめる。
晋平はといえば、「やべぇ…絶対吉田先生に怒られる……。」などと呟いている。ざまあみろ。
と、そこで始業のチャイムが鳴った。

あぁ、これから長い長い一年が始まるのか。