いつも通りの帰り道。

「結愛ー!」

校門の前で親友の夏希が抱きついてきた。

「あつくるしいな!もー!あ、今日もバイト?」

「そうなんだってー、もうだいぶ稼げたから、またみんなで遊びに行こ!もちろん、大樹も誘ってね!」

「うん!!私も頑張って貯金するー。」

「頑張れ!んじゃ、ばいばーい!」

角を曲がると、私の彼氏、大樹がいた。

「よぉ、一緒に帰ろーぜ」
「うん。」

いつも通りの君の話す声。

「お前テスト追試だろ?」

「うるさいなぁ!頑張ったんだからね!」

下敷きでパタパタと自分の顔を仰いでいる。なんせこの暑さだ。
私より10センチ高い身長の大樹を見上げた。
彼の首筋から汗が滴り落ちている。
やっぱりまつげ長いな。髪も綺麗で羨ましい。どんな美女にも、かなわなくらい綺麗な顔をしている。
そしてこっちを見た。

「な、なに?俺の顔になんかついてる?」

「べーつーにー」

「え、怒ってる?」

「べーつーにー」

「俺なんかした?」

「しーてーなーいー」

「正直に言えよ?」

「だーかーらー、なんでもないってばー」

もう分かれ道だった。

「わかったわかった、じゃあ、また月曜日な」

「はいはい、月曜日の朝チャリ乗せてってねー、ばいばーい!」

「おう!ばいばーい」


いつも通りのバイバイ。

また月曜日、会えると思ってた。
いつも通り話せると思ってた。



「ただいまー」

家に入り、カバンを下ろすと、リビングで深刻そうな顔をした父と母がいた。

「どうしたの?そんな深刻そうな顔して」

すると母はため息をつき、こう言った。

「結愛。真剣に聞いてね。」

「うん、なに?」

「お父さんの仕事の勤務先が、大阪になってしまったの。だから、日曜日にはもう大阪に行っておかないとだめなの。」

「つまり…俺たちは大阪に引っ越さないといけないんだ。」

そう言われた瞬間、時が止まったようだった。嘘だ、嘘に違いない。

「え…?またそんな冗談言っちゃってー!エイプリルフールじゃあるま…」

できるだけ笑顔でいたけど、涙が溢れてきた。大樹や、夏希達と会えない…
そんなの考えられなかった。