一週間前転校してきた男は、黒髪碧眼のイケメンだと一日で学校中に知れ渡った。でも、私は知っている。

「こんにちは。夕衣さん。」

人畜無害そうなこの笑顔の裏にとんでもない厨二病を秘めていることに。

「・・・こんにちは。黒井センパイ。」

顔が引きつる。それもそうだ。
『前世の記憶とかある?』
大真面目な顔で私に問いただしてきたのが昨日の話。
これがあれば気まずくならない方がおかしいというのに、このイケメンは何事もなかったかのような顔で挨拶をしてきた。

「ねぇ、夕衣。さっきの黒井さんだよね。」

いつの間にか後ろにいた理名が肩をたたく。その顔は満面の笑みだ。この親友はいつもそう。面白そうなことがあれば真っ先に行動する。

「そうだけど。」

ニコニコだったものはニヤニヤでも形容しがたくなり、しまいには変な笑い声をあげていて少し気持ちが悪かった。

「一日で学校の女子を虜にしたあの黒井さんが、この地味で平凡な夕衣にねぇ?」

地味で平凡。それは私にとってほめ言葉だ。私は普通が良い。シンプルイズザベスト!!ちょっと違う感じもするが、私はとにかく普通がいい。彼氏も普通で良いし。友達も普通につきあえるならよしとしよう。

「おもしろがってるだけだよ。」

理名は珍しく真剣な顔をして、そうだったらいいねとだけ言った。いたずらをしても怒られにくい彼女の予感はよく当たる。

「何事もなければいいけど・・・。」