その日は大学での勉強を早めに切り上げ、6時頃に幸治さんに大学へ迎えに来てもらった。




私は幸治さんの運転で、どこに行くのだろうと思ったけど、幸治さんが何も言わなかったから、あえて私も何も聞かず、車に乗っていた。







辺りが暗くなり始めたころ、車が止まった。





車はお店の駐車場のようだ。





周りを見渡すと、そこには大きなお城のような建物のお店。





「ここは、どこ?」





独り言のように言うと、






「今日のディナーは、ここ。」






と幸治さんは言い、車から下りてお店に入って行く。





私は慌てて着いていこうと急ぐと、幸治さんは私を急がせないように止まり、私を待ってくれた。







お店の扉を開けると、そこには白いカッターシャツに黒色のベストと蝶ネクタイ、スラックスを履いたウェイターがお辞儀をして、私たちに挨拶をした。





「予約しました佐藤です。」






と幸治さんが言う。






幸治さん、こんな素敵なところをわざわざ予約してくれたんだ。





と嬉しくなった。






案内された席に行く。








静かな店内。目の前には慣れないフォーク、ナイフ、スプーン。

  


私が不安になっていると、それを察したのか幸治さんが、




 
「俺の使い方、見てろ。」





と言った。






そしていよいよ食事が運ばれてきた。






幸治さんの手元を見て、同じようにフォークを手にして、サラダを食べる。





「やっぱり器用だな。」






と言われ、照れる。





それより、なんで今日は突然こんなところに読んだんだろう。






「今日はどうしたんですか?こんな素敵なところで。」






と私が言うと、幸治さんは、





「たまにはいいと思って。」






と答える。






私の社会勉強に連れてきてくれたんだろう。





そのあと、私たちは、出された食事をたいらげた。






食事中、気になっていたことを幸治さんに尋ねた。






「今日、どうして講義に来ることを言ってくれなかったんですか?」




と言うと、





「あー、突然決まってな。






あの大学で小児の教授してる人、知ってるか?」







「はい、最近、とてもお世話になりました。」






と言うと少し驚いた顔をする幸治さん。






「そうか。





あの方は俺が研修医中にお世話になった方なんだ。」





えっ?やごな病院にみえたんだ。






知らなかった。






「教授に頼まれて、急きょな。






まぁ、お前が受講すると思ったし、いいかと思って。」





そういうことだったんだ。





講義の後、すごい人だかりだったけど、いつ終わったなかなぁ。





「講義の後、どのくらい教場にいたんですか?」 





と聞くと、幸治さんは





「つまらん質問ばかりだったから、追い払って教場を後にしたぞ。」





と嫌そうな顔で答えた。






きっと電話番号でも聞かれたに違いない。





「それと、あの最後の方の患者さんの話、、、





もしかして、、、」






と聞くと、いたずらそうな顔をして、





「もちろん、お前だ。」






「もう、恥ずかしかったんですから!」







「しょうがないだろ?  





脱走したのが悪い。」







「あの時は、いろいろと心の変化が激しくて。」








「その時の気持ちは忘れるな。






大人になれば、子供の時の気持ちなんてすぐに忘れる。





でも、その気持ちが分かれば、患者が子供のとき、少しでも気持ちが分かってやれるから。」






と突然医者の顔になる幸治さん。





そんな幸治さんの顔も素敵。






「それより、これからちょっと行くぞ。」






と言われ、私たちはお店を後にした。