「もしもし、かな?」
久しぶりの幸治さんの声に、顔がほころぶ。
「もしもし。かなです。」
「今、大丈夫か?友達と遊びに行ったって聞いたけど。」
「大丈夫です。幸治さん、今は家ですか?」
私が友達と遊んでることを聞いたということは、きっとお母さんに会ったんだ。
すると、久しぶりに幸治さんが帰宅したと思うと、今日帰ったら会えるかもしれないという期待が胸を踊らせた。
「ああ。ところで今晩、親父たちと食事に外に出るから、それまで戻ってこいよ。」
私はいよいよその時が来たと確信した。
今日、お父さんたちに私たちのことを話すんだ。
「分かりました。」
携帯を切ると、ニックが話しかけてきた。
「今の誰?」
「う、うん。」
私は幸治さんについて、ニックに話す必要はない気がした。
まだニックとはペアを組んで一週間。
たけるやまいにも話していないことを、ニックに話すことはないと思った。
浮かない顔をしているニック。
「今日ね、家族と夜御飯を食べるから、夕方までには帰らなきゃいけないの。
ごめんね、ニック。」
「え?」
顔を曇らせるニック。
それから私とニックの間に会話はなく、黙って歩いた。



