夜が来て、お父さんが帰ってきた。
私はお父さんを玄関にお迎えに行って、挨拶をした。
「おお、かなちゃん。来てたんだね。」
と嬉しそうな顔をして私に抱き着くお父さん。
「ゲホッ」
苦しくて思わず咳がでた。
「大丈夫かい?疲れてる?」
とお父さんは私の顔を覗き込んだ。
「いえ違います。大丈夫です。」
と答えると、お母さんがやってきて、
「お父さん、かなちゃんのこと診てあげて。
長旅で疲れてる上、少し走っちゃったから。」
とお父さんに言う。
「そうか、おいで。」
と言ってお父さんに手を引かれ、玄関から近い部屋に通された。
そこはシンプルな部屋になっていて、必要最低限の物しか置かれていない。
「ここは幸治の部屋なんだ。幸治がこっちに来たときのために用意してある部屋だよ。
そこのベッドに腰かけてね。」
と言われ、私は大人しくお父さんの言うとおりにベッドに腰かけた。
「聴診するから、服をあげてね。」
と言われ服をあげる。
深い呼吸を繰り返す。
「少し疲れたかな。雑音が多少聞こえるけど、無理しなければ大丈夫だよ。
普段は誰に診てもらってるの?」
「呼吸器内科の進藤先生です。」
「あぁ、進藤か。よく知ってるよ。
あいつなら大丈夫だな。
こっちに来たら幸治が忙しくなるから、代わりにお父さんがみてあげるからね。」
と優しくそして包み込むように言われる。
自分のことをお父さんだなんて、本当にそういうところが可愛いらしい。
私はそれから晩御飯を食べ、明日に備えてお風呂にはいって眠った。
その日幸治さんは帰ってくることがなかった。



