それよりもとりあえず大変な事にはならなかったみたい。


安心した。


「じゃあ。これで」


用件もすんだっぽいから私は帰るために階段をおりようとした。


するとA子に呼び止められた。


「なに?」


振り向くと、A子が顔を真っ赤にしていた。


「じゃ、じゃあ、藤くんのことすき…? 私は藤くんのことが大好きだよ?」


「……っ」


私は出かかった言葉を飲み込んでしまった。




好き。




たった二文字なのに、なぜかためらってしまったんだ。


赤らめた彼女はとても乙女で、どれだけ藤くんのことが好きなのかというのが伝わってくる。


まるで少女漫画のヒロイン。


うさぎみたいで、小さくて、守ってあげたくなる……そんな感じ。


負けたな、と思った。


ここで黙ってしまう私じゃ、敵わないよ。


「嫌い?」


「違うと思う」


「好き?」


「分からない。分かんない」


頭の中がもやもやとした煙に包まれる。