「あ、あの、佐倉さん。これ」
名前を呼ばれて、私は伏せていた顔を上げる。
「……なに?」
「一昨日に提出したノートの返却です……」
おずおずと差し出してくる。私はそれを受け取り、表紙を見て納得をする。
現代文の授業に用いるノート。昨日は急に熱が出てしまい休んでいた。
私はじっとクラスの女の子を見据える。すると、まるで蛇に睨まれた蛙のように固まってしまった。
「ありがと」
私は漏れ出そうになった溜め息を無理やり飲み込み、ふいと目を逸らしてお礼をいう。
けど――
「は、はいい〜!」
ノートを渡してきた子は一目散に後ろの女子軍団の塊に逃げ帰っていく。
そして彼女らの会話が耳に入ってきた。
ーー大丈夫だった?
ーーうん、なんとか。でも怖かったよぉ。
ーーそっかぁ。がんばったねっ。
机を蹴りあげたくなったが、物に当たるのは幼稚な人がやることだ。一呼吸入れて我慢する。
……なにががんばっただよ。
「ちっ」
舌打ちをした私は軍団に向かってキッと睨んでやると、恐がって散らばっていく。
周りからの視線が集まる。どれもこれも良くは思っていないものばかり。
別に決して私はヤンキーではない。
なのに、私は人から避けられてしまう。
理由は私がよくわかっている。
無愛想だからだ。
常に無表情で、しかも元々が猫のようにつり上がった目をしているから、素の顔でも少し怒ってるように見えるのだろう。