「ったく〜。藤も言えよなぁ」
「ちょっとまえから積極的に話かけてたもんな。気付いてやれなくてわりぃっ」
「信じらんないっ!!! あんな興味なさそうにしてたのに……佐倉さんの泥棒猫!」
「へぇ、佐倉さんなかなかやるじゃん。みなおしたわ」
冷やかしや暴言が飛び交う。
うるさい。とても。
いますぐ机蹴っ飛ばして教室から出て行きたいくらい。
でもそれはさすがにまずいから、私はとりあえず耳を塞いで聞こえないフリをした。
というか泥棒猫って言われるなんてなかなかない気がする。
混乱を招いた張本人は男子たちに肩を揺さぶられながら放心している。
ふと廊下側を見れば騒ぎを聞きつけた他のクラスの人が顔をのぞかせていた。
この調子だと学年にも広がる。
ただえさえ恋愛話はみんな大好物なのにその対象がぼっちの私と人気者の藤くんだから、ネタとしてはかなり上々なんだと思う。
収まる気配は無く、さらになんでかあの女子軍団に囲まれてしまった。
あの数学係が私の目の前に仁王立ちする。
彼女が口を開くと同時に、運良く英語の先生が教室に入ってきた。
「なんだおまえら。座れよー。もうすぐで授業だぞ。今日は電子辞書も使うからな」
「……佐倉さん、今日放課後付き合ってね」
いつもはウサギみたいに震えた声のくせに、この時だけは猛獣のように猛々しく真が通っていた。
放課後か。
いやまあ、行かないけどね。


